おしゃべり病理医スタンプ図鑑
おしゃべり病理医スタンプ図鑑 COLUMN
2024.01.22
2024.01.22
すごいぞ、皮膚! テッペキのバリア
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受験シーズンの冬は、インフルエンザをはじめとした感染症流行のピークにあたり、受験生も応援する家族もピリピリしますね。免疫力アップのための様々な食品やマスクをはじめとした感染防護アイテムなどの出番でもあります。

◆テッペキな皮膚

とはいえ、実は、人間のいっちばんのテッペキバリアはなんといっても「皮膚」なのです! 皮膚は、表皮・真皮に分かれていますが、みなさんの目に見えているのは表皮の角質層の部分です。表皮は、上から角質層・顆粒層・有棘層・基底層に分かれており、ミルクレープに負けない見事な多層構造をつくっており、「重層扁平上皮」とも呼ばれています。

熱い食べ物の通り道でもある口の中や食道も同じ重層扁平上皮なのですが、皮膚と口や食道の粘膜と異なる点は、角質層があるかないかです。角質層は皮膚を保湿するためにとても大事な層ですから、からだの外側を覆う皮膚だけに角質層があるのです。角質層の表層の角質は時間が経つと垢(あか)としてこぼれおちます(口の中から垢が出たらいやですよねぇ)。

さて、この角質層を含めた多層構造によって、皮膚は、外界からの様々な物質や微生物を遮断するテッペキのバリアになっています。太陽の光に含まれる有害な紫外線も様々な病原体も化学物質も何もかもこの皮膚のミルクレープ構造とその上を覆う皮脂によって、体内に直接入ってくることがありません。皮膚サマサマなのです!

他にも皮膚には、「ランゲルハンス細胞」という免疫を担う細胞が、1㎟あたり、なんと1000個も“常駐”しており、様々な病気を制御する役割を担っています。この免疫細胞の数もテッペキ! つまり表層から分泌された皮脂、ミルクレープ構造の表皮、そして、無数のランゲルハンス細胞と、さまざまな仕組みが私たちを守ってくれているのです。

▲椛島健治『人体最強の臓器 皮膚のふしぎ 最新科学でわかった万能性』講談社

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◆皮膚は、最大の臓器で脳の一部?

臓器と聞くと、どうしても「内臓」が連想されてしまうため、きっと意外だと思うのですが、皮膚は「人体最大の臓器」でもあります。

からだ全体の皮膚の重さは、体重の約16%。体重50kgであれば、8kg、体重60kgであれば、9.6kgに相当します。だいぶ重いですね。成人男性の脳は1400gほど、肝臓も個人差がありますが、同じくらいですので、それよりずーっと重いんです。

このように、存在感あふれる重量級の皮膚ですが、実は、受精卵に近い状態の時は、脳の細胞と同じ細胞由来なんです。「外胚葉」とよばれる細胞群に含まれるのが脳や脊髄などの中枢神経組織、そして皮膚です。脳や脊髄は、感覚器を通して外界から得た情報を処理するシステムですが、皮膚は、環境と接するいちばん末端で、触覚を主に駆使して情報を収集するシステムを担っています。考えようによっては、外側にせり出した脳が皮膚である、とも言えます。

『第三の脳』の著者の傳田光洋さんは、「脳」のある生物は限られていますが、広義の「皮膚」がない多細胞生物はいない、と言います。ウイルスでさえ、「殻」を持っている。生物にとって最も重要な構造は、環境と自分自身を区切る皮膚なんですね。

▲傳田光洋『第三の脳:皮膚から考える命、こころ、世界』朝日出版社

「皮膚思うゆえに我あり」ではじまる本書。2007年発刊の本ですが、椛島先生とはまた違った切り口で皮膚のひみつに迫った名著。帯の「感じるだけが皮膚の仕事ではない。皮膚は未知の思考回路である」に痺れます

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投稿者プロフィール

小倉 加奈子
小倉 加奈子
趣味は読み書き全般、特技はノートづくりと図解。一応、元バレリーナでおしゃべり(おえかき)病理医。モットーはちゃっかり・ついで・おせっかい。エンジニアの夫、医大生の息子、高校生の娘、超天然の母(じゅんちゃん)、そしてまるちゃん(三歳♂・ビション・フリーゼ)の5人+1匹暮らし。