ようやく桜の開花が告げられ、本格的な春の到来ですが、それは花粉症の季節真っ盛りを意味します。スギ花粉のあとには、ケヤキなどの花粉も飛びはじめ、どちらにもアレルギーがある方は、つらい季節ですね。
軽い花粉症のおしゃべり病理医は、先日、大雨の日の翌日だったのですが、突然、凄まじい鼻水とくしゃみに襲われました。1件病理診断をするたびに、数枚のティッシュを消費して鼻をかむ、の繰り返し。鼻の穴から水のような鼻水が走り落ちていくのを感じながら、英語の鼻水の意味である、“running nose”って、なんてうまい表現なんだろうと感心したりしていました。
◆肥満細胞はおでぶちゃんな細胞?
さて、花粉症をはじめ、アレルギー性の病気には免疫細胞が関与しています。自己免疫性疾患や結核などの感染症を含めて、アレルギー反応をきたす疾患はたくさんありますが、免疫細胞とそれに対するからだの反応の仕方で、大きく4つのタイプに分けられています。アレルギーとみなさんが耳にしたときは、花粉症や気管支喘息、アトピー性皮膚炎などを思い浮かべる方が少なくないと思いますが、それらはいずれも4つのタイプの中で、「Ⅰ型アレルギー」に分類されます。
そして、このⅠ型アレルギーを引き起こす原因となる細胞が今日紹介する「肥満細胞 (mast cell)」です。なぜ肥満、なのか? おでぶちゃん、なのか?
『日本大百科全書』によると、英語のmastは“肥え太った”という意味で、ドイツの細菌学者P・エールリヒが、組織の栄養を顆粒の形で蓄えている細胞という意味でこの名をつけたと説明されています。実際には、組織の栄養を蓄えているのではなく、顆粒内にはヒスタミンとヘパリンが含まれていて、Ⅰ型アレルギーの症状を引き起こす犯人なのです。実際、肥満細胞は、顕微鏡で観察すると、核が隠れて見えないくらい顆粒をたっくさん含み、大きなふっくらまるまるとした細胞で、「なるほど、おでぶちゃん…」と、私は思います。
◆鼻水、くしゃみをもたらす顆粒爆弾
Ⅰ型アレルギーは、即時型アレルギーとも呼ばれます。花粉症の場合は、花粉を「敵だ!」と認識した免疫細胞(「形質細胞」といいます)が、花粉に対するIgEという抗体をつくり、それが肥満細胞を刺激することによって生じます。
最初は、「感作」といって、IgEが肥満細胞の表面の受容体にたくさんくっつき、再び、花粉が体内に入ってくるとすぐに、過剰に反応するような状態になってしまいます。どんなふうに過剰に反応するかというと、自分の細胞質にため込んでいた、ヒスタミンやヘパリン入りの“顆粒爆弾”を大量に投下するのです(これを「誘発」といいます)。
特にヒスタミンは、血管の壁をゆるゆるにして血液中の液体成分がかんたんに血管の外に流れ出るようにし、それが鼻の粘膜のむくみや鼻水をもたらします。鼻水やくしゃみは、有害物質を排除するためにはもってこいの反応ですが、花粉自体はそんなに悪さをするわけではないのですから、まさに過剰防衛なのです。
何にアレルギーがあるか知りたい方は、ぜひ、皮膚科でパッチテストを受けてみてください。おしゃべり病理医は、花粉症もちょっとありますが、かなりひどい猫アレルギーで、猫ちゃんを飼っているお宅で数時間も過ごすと、全身にじんましんが出て、目もかゆくて鼻水も止まらなくなります。色々なものに対するアレルギーがありますし、血液中のIgEの値が高いかどうかも「アレルギー体質」であるかどうかの指標になります。
また、花粉症のある方は、バラ科をはじめとした植物にアレルギーをきたし、りんごやさくらんぼなどの果物アレルギーを合併することがありますので要注意。特に食べ物のアレルギーは、アナフィラキシーという重篤なⅠ型アレルギー症状を起こすことがありますので、しっかり検査を受けることが大事です。
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投稿者プロフィール
- 趣味は読み書き全般、特技はノートづくりと図解。一応、元バレリーナでおしゃべり(おえかき)病理医。モットーはちゃっかり・ついで・おせっかい。エンジニアの夫、医大生の息子、高校生の娘、超天然の母(じゅんちゃん)、そしてまるちゃん(三歳♂・ビション・フリーゼ)の5人+1匹暮らし。
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