7月末から始まったMEdit Labワークショップ「医学をみんなでゲームする2」は、大詰めを迎えています。いま、参加者さんは、最終お題12問目に取り組んでいます。このお題、ひとことで言えば「ここまで考えてきたゲームを企画書としてまとめる」というもの。締切まであと数日。ラスボス「キカク書」と格闘中の方も多いはず……。
ということで、今日はプロのライターである編集ウメ子から企画書の書き方のコツをお伝えいたしましょう。いや、企画書のコツというより、ライティング全般のコツ。レポートを書くときにも、友だちとしゃべるときにも、クラス全体に何かを説明するときなど、あらゆる場面で使える大原則です。
■よくある惜しい例
Q12のキカク書ワークでは、まず「どんなゲームか」というゲーム概要を150字以内で書いてもらいます。自分でたくさん考えたゲームを説明しようとすると、こんな書き方になりがち。まずは、ありがちな惜しい例を紹介しましょう。
説明するゲーム:MEdit Labが開発した「バナオーマ」
●惜しい例1
このゲームは、病理診断について学ぶことができます。ゲームで遊ぶことで、病理診断の難しさを体験できます。●惜しい例2
このゲームは、14段階のバナナカードを使用します。バナナカードはまず伏せて配布します。表面のバナナカードには色の違ったバナナが印刷されていて、それぞれのバナナは未熟から過熟まで段階に分かれていて……
どうでしょう。「バナオーマ」というゲームについて知らない状態では、この説明を聞いても、どんなゲームなのかなかなか想像がつきませんよね。(実際に、どんなゲームなのか知りたい方はこちらの本郷高校でゲームを遊んだときのレポートからどうぞ)
2つの説明文の惜しいところ、どこだと思います?
そうです。
例1は【ゲームの開発目的】の説明に終始してしまい、【ゲーム形式】がまったくわからないこと。例2は、最初から【ゲームのルール】に深入りしすぎて、ゲーム全体のことが見えないこと、です。どちらも、ピントがうまいことあっていないのです。
最初に書く概要説明では、そのゲームのことをまったく知らない人にも、なんとなくそのゲームの全体像を見せてあげたい。この世界中のなかで、自分が作ったオリジナルゲームのことを知っているのはほぼ自分だけだから。でも、アタマのなかでイメージしているゲームも、「企画書」という形式になると、文章を読めるすべての人と共有することができようになるんです。
■まずは輪郭。まつ毛はあとで。
では、どうやったら、自分の考えたゲームをまったく知らない人に紹介できるのでしょう? そのひとつの方法は、「まず全体像を示す。細部はあと」というやり方です。
昨年度2023年のワークショップでは、文筆家でプロのゲーム作家の山本貴光先生がこんな説明をしていました。
「似顔絵を書くとき、いきなり『まつ毛』から描き始める人はいませんよね。まず、輪郭から描きます。輪郭を描いて、ここがあたまのてっぺんで、ここが首で、ならこのあたりが目でここが鼻かな……とあたりをつけてから、まつ毛を描き込むわけです」。
自分で考えたゲームは、自分はよおーく知っています。だから、自分のなかではゲームの輪郭も目鼻立ちもしっかり想像できている。そうすると、まつ毛のようなこだわった細部を描きたくなってしまう。その気持ちはよくわかりますが、人に物事を伝える文章を書くときには、「その物事を知らない人が、その文章だけを読んで全体像を想像できるか?」ということをまず念頭においておきましょう。
▼山本貴光先生による「キカクショ添削レクチャー」については、動画も公開しています。こちらの記事のⅣプレイ体験を考える!からご覧ください。どんなふうに書いたらいいか、具体的なやり方がよくわかります。
■《もってひょーじゃ》を盛り込むと
たとえば、バナオーマを例にするならば、こんな説明が考えられます。
【どんなゲームか〈概要〉】
バナオーマは、専門性が高い「病理診断」の難しさを楽しく学べるカードゲームです。カードには、緑から黄色、真っ黒までだんだん熟していく14段階のバナナが印刷されています。プレイヤーには、1枚ずつバナナカードが配布されます。プレイヤーは自分のカードだけを見て、プレイヤー同士で話し合いながら、制限時間のなかで14段階の順番どおりにカードを並べるのを目指します。
たとえば、こんなかんじでしょうか。ゲーム自体の目的とあわせて、ゲームのルール概要を簡単にまとめてみました。(あっ、文字数が150字を超えている……)
今回のお題では、ゲームの4要素である《もってひょーじゃ》を盛り込むように求められています。《もってひょーじゃ》とは、山本貴光先生が教えてくれたゲームの4要素《目標・評価・手段・邪魔》を覚えやすいように頭文字をとって合体させたMEdit Labの造語です。
ここでいえば、バナオーマの《目標》は「順番どおりにカードを並べること」。そのための《手段》は、「自分に配布されたカードを見る」「プレイヤー同士で話し合う」ですね。《評価》については明示されていませんが、《目標》にどれだけ近づけるかが評価軸でしょう。《邪魔》については、「自分だけのカードを見る」というところ、つまり「プレイヤーには一部の情報しか与えられない」という点や、「制限時間のなかで」という制約条件として盛り込まれています。
■たとえばこんな説明も
ながながと説明してきましたが、すでに参加者さんから届いている回答もすばらしかったんです。たとえば、Isseiさん考案の「スリープケアラー」がかっこよかったですね。
【どんなゲームか〈概要〉】
「スリープケアラー」は、睡眠の知識を楽しく学べるカードゲームです。プレイヤーは「睡眠スコア」を集めて、自分の健康を維持しつつ他のプレイヤーを出し抜くことを目指します。嘘の情報や睡眠に関する豆知識を使いながら、睡眠に関する知識と駆け引きを楽しむゲームです。
簡潔でいいですねえ! 1文目では、このゲームの役割を示しています。わかりやすい。2文目では「睡眠スコア」を集めるという《手段》と、「ほかのプレイヤーを出し抜く」という《目標》が書かれています。簡潔でいいですね。Isseiさんは、3文目で「そのゲームのなにが楽しいのか」というプレイ体験の魅力を盛り込むというサービスまでしてくれました。
しかもそのあとの回答欄で、「このゲームは「ウノ」と「トランプのダウト」を組み合わせたようなゲームで、ブラフや戦略が重要です。」と、ほかのゲームとの類似性もしっかり説明できているので、ゲーム形式についてもなんとなく想像できるのです。
■企画書はいつでも「途中」だから
2023年度のワークショップにて、山本貴光先生はこんな話を教えてくれました。
山本先生は、25年前、新人ゲーム作家として何百というゲームの企画書を書いたとか。そのときに実感したのがこのこと。
「企画書に完成はありません。いつでも途中バージョンです」
この言葉にどんな意味が込められているかは、ぜひこちらのレクチャーまとめ記事でご覧ください。企画書を書くとき、ゲームをつくるとき、文章を書くとき、「ダメ元主義」という言葉がみなさんのお守りになるはずです。
MEdit Labワークショップのラスボスお題。100%満足いくことなんかありえませんので、締切が来たらいったんの「途中バージョン」を提出しましょう。お待ちしています。
投稿者プロフィール
- 聞き上手、見立て上手、そして何より書き上手。艶があるのにキレがある文体編集力と対話力で、多くのプロジェクトで人気なライター。おしゃべり病理医に負けない“おせっかい”気質で、MEdit記者兼編集コーチに就任。あんこやりんご、窯焼きピザがあれば頑張れる。家族は、猫のふみさんとふたりの外科医。