ヤクルトスワローズの看板マスコット、つば九郎の “中の人” が亡くなられたのは先月のこと。12球団のマスコットの中で、ダントツの人気を誇っており、ゲーム途中の “くるりんぱ” を楽しみにしていたスワローズ以外の野球ファンもたくさんいたのではないでしょうか（おしゃべり病理医もそのひとり）。

亡くなった理由は、肺高血圧症。急だったこともあり、高血圧じゃなくって肺高血圧症ってどんな病気だろう？高血圧で急に亡くなってしまうことってあるの？といろんな疑問が沸き上がった方もきっと多いと思うので、今回のふしぎな医学単語帳は、「肺高血圧症」という難病に迫りたいと思います。

◆そもそも血圧って何だろう？

高血圧は、文字通り、血圧が上がること。血圧とは血管の内部を流れる血液の圧力をいいます。医学的には、「血圧＝心拍出量×末梢血管抵抗」と定義されますが、血液の“流れる量”と“流れにくさ”の両方が、血圧に関与しています。

血圧が低すぎると私たちは生きていけません。血液は、全身の細胞にくまなく酸素と栄養を届ける必要があるわけで、ある程度の圧力がなければ、身体の末端まで血液を流すことはままなりませんし、私たちは直立二足歩行をしていますから、物理的に高いところにある脳に血液が届かなければ、気を失ってしまいます。

若い方に多い「起立性低血圧」は、立ち上がった時に血圧を瞬時に高めることができないため脳に血流がうまく届かず、一過性の脳虚血となり、具合が悪くなる病気です。また、「出血性ショック」という病態は、血管内を流れる血液が大出血によって著しく不足することで、血圧を保てない状態をいいます。いずれにしても、低血圧が持続すること、血圧を保てないことは、死を意味します。

一方で、血圧が高すぎるとそれはそれで問題です。通常、腕の部分の動脈で血圧を測定し、140/90mmHg以上の状態を高血圧と定義しますが、血圧が高ければ、血管に強い圧力がかかりますから、血管のダメージが加速し、心筋梗塞や脳出血などの循環器疾患のリスクが高まります。

血圧は、高すぎても低すぎてもダメで、また、状況によって柔軟に血圧を変化させることができないと、日々の生活に大きな支障をきたすことになります。

◆肺高血圧ってどんな病気？

では、肺高血圧症とはどういう病気なのでしょうか。この病気では、特に、肺動脈（心臓から肺へと向かう動脈）の血圧が特別に高くなります。肺動脈圧の平均が、25mmHg以上（近いうちに20mmHgに変更される可能性があるのだそう）になると肺高血圧症と診断されます。

先ほど、血圧は、血液の量と血管の抵抗で決まるという話をしましたが、肺高血圧症の場合は特に、肺動脈の血管の抵抗が高まることで生じます。例えば、肺動脈に血栓が生じて、つまってしまったり、何らかの理由で肺動脈の壁が厚くなり、血管の内腔が小さくなってしまうことなどが要因です。

肺動脈で血液が流れにくくなると、心臓は一生懸命、力を入れて肺に血液を流そうとしますから、心臓の特に肺動脈から続く右心室という壁ががんばります。最初は筋肉でできた心臓の壁が厚くなることで、なんとかその事態に対応しようとします。しかし、そんな状態が長く続くと、心臓がくたびれてしまい、最終的には心不全になってしまいます。

肺高血圧症には様々なタイプがあり、生まれつきの疾患から、膠原病に合併するもの、あるいは原因不明のものまで色々あり、難病に指定されています。治療については、薬物療法が中心ですが、狭くなった血管を広げるようなカテーテル治療や、重症の患者さんには肺移植が行われる場合もあります。

治療法の進歩により症状や予後の改善が期待できるようになってきているということですし、生活の仕方など心臓や肺に負担をかけない工夫も重要といわれています。

つば九郎さんの冥福をお祈りいたします。

◆参考URL◆

肺高血圧症｜病気について｜循環器病について知る｜患者の皆様へ｜国立循環器病研究センター 病院

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