コトバト通信 COLUMN
こんにちは、言語聴覚士の竹岩直子です。前回にひきつづき「食べる」を覗いてみましょう。
私たちは、歯や舌、頬、唇などを使って、さながらお餅つきのように口のなかで咀嚼をしているんでした。そんな〈もぐもぐ〉のあいだに「おいしいなぁ~」が湧き出てくるわけですが、では、その「おいしい味」って一体どこで受け取っているのでしょうか?
みなさんの想像通り、味覚の大部分は舌で感じられています。
舌の表面には「乳頭」と呼ばれる小さな突起状の構造が4種類ほどあり、糸状乳頭を除いた乳頭には〈味蕾(みらい)〉という味を受け取るための受容器がそなわっているのです。
この味蕾は乳児の頃には約10,000個あるとされ、舌表面以外にも口のなかのいたるところにあります。が、大人になるとその数は5,000~7,500個と半減し、加齢とともにさらに減少してしまいます。
ちなみに、ほかの動物の味蕾はどうかというと、猫は500個、犬は2,000個とヒトよりずっと少ない一方で、牛はなんと20,000個もあるそうです!
一般に草食動物の方が多いようですが、それは色や形では見分けのつきづらい草のなかから食べていい草なのか、あるいは食べてはいけない草なのかを選り分けるためなのだとか。味覚とは、グルメのためだけでなく、大切な命を守る役割ももつようです。
さて、そんな味蕾のおかげで、私たちは「味」を感じることができているわけですが、「味わい」となると少し話が違うかもしれません。
私たちは味覚のほかにも、視覚、聴覚、嗅覚、触覚といったさまざま感覚を備えています。日々の食事では、こうしたいわゆる五感をつかって、味だけでなく、食材の色艶や、咀嚼音、香り、歯ごたえや舌触りといったものを堪能しています。
さらには「家族との思い出の味」や「初デートで食べた味」といった「記憶」も、豊かな味わいの手助けをしてくれているでしょう。
記憶と味に関連して、こんな興味深いお話を聞いたことがあります。
ニューヨークで博多料理店を営む男性が「明太子」を売り出した時のこと。商品名を直訳で「Cod roe(タラの卵)」と名付けたところ、「気味が悪い」と予想以上の不評だったそうです。
ところが「HAKATA spicy cabia(スパイシーキャビア)」とネーミングを変えた途端、「すばらしい!」「美味しい!」と爆発的なヒットとなったのです。
この話をきいて、やはり私たちは「記憶」によって、さらには「記憶」と結び付いた「言葉」によっても味わいを感じているのだと思いました。
みなさんの感じる味は、どこからどんなふうにやってくるでしょうか。
舌で、目で、耳で、そして心で感じる味わいに、ぜひ一度注目してみてください。
それでは、本日はこのへんで。また、次回お会いしましょう!
投稿者プロフィール
- 絵本作家に憧れていたという少女は、若干、変化球的に進路を選択して「言語聴覚士」に。コトバのセンスがバツグンのマイペース大阪人で趣味は刺繍と空想。おしゃべり病理医おぐらとは「イシス編集学校」の仲間。
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