先日のMEdit Labワークショップ・オープニングイベントでは、保健体育の授業でも取り上げられることの多い医療テーマを扱いました。生活習慣病もそのひとつ。悪い生活習慣がもたらす肥満が高血圧、高脂血症、糖尿病などの生活習慣病をもたらすことはみなさんもよくご存じのことでしょう。
でも、肥満のリスクについて教えるなら、一方で、過度なダイエットの怖さも伝えるべきではないでしょうか。若い世代では、肥満よりも“やせ”が問題となっています。明らかにアジアのアイドルたちは痩せすぎですし、そういった女性たちに憧れる若い世代は、その容姿に影響を受け、無理なダイエットに走り、体調を崩す場合が少なくありません。
◆摂食障害は、最も致死率の高い精神疾患
摂食障害は、近年、特に若い女性で罹患率が増加している精神疾患です。摂食障害は、3つに大別されており、「神経性やせ症」「神経性過食症・過食性障害」「制限性食物摂取症」があります。「神経性やせ症」は、全く食事を受け付けなくなる病態で、特にうつ病や統合失調症などと比較しても、致死率のより高い、非常に怖い病気です。
摂食障害を罹患するきっかけは実にさまざまだと言われています。お腹の風邪を引いてたまたま食べられない日々が数日続いたこと、友達に痩せたことで容姿を褒められたこと、などなど、些細なきっかけで発症しますが、その背景には、対人関係などでストレスを抱えているといった別の要因が隠されていることも少なくありません。まじめで辛抱強い性格の人が発症しやすいともいわれています。ストイックな性格の方は要注意です。
痩せすぎるとキレイになることとは程遠い、様々な身体の不調が生じます。飢餓状態となった身体は、基礎代謝をうんと低下させることで対応しようとします。血液検査では脱水、貧血や白血球減少、肝機能異常、低タンパク血症、高コレステロール血症などがみられます。また、ホルモンバランスが崩れ、男性ホルモンが増えて、毛深くなることもあります。女性ホルモンが低下すると月経が止まります。さらに、脳が萎縮し、思考力が低下することもわかっています。
摂食障害の厄介さは、その治りにくさ、治療の難しさです。やせ願望が薄れた後も「食べるのが怖い」というパブロフの犬のような条件反射的な思考パターンがなかなか解消されないことも特徴で、苦しい状況が継続します。
摂食障害、特に神経性やせ症は俗に「拒食症」と呼ばれますが、むしろ拒食より“恐食”をどう克服するか、が課題となることが多いのです。
◆指導者や家族など周囲の理解が必要
摂食障害については、まずは予防が何よりも大切です。もしも、かかってしまった場合は、家族を中心とした周囲の理解とサポートが大切です。食事を摂ることの怖さに寄り添いながら、日々の食事量を増やしていく方法を一緒に考えていくことが大事ですし、食事以外の本人が抱える様々な困難を解決していく必要もあります。
また、病識が欠如している場合には、摂食障害という病気についての正しい知識を本人と家族で学んでいくことも重要です。自分の体形や体重へのこだわりなどの認知のゆがみに気づいていくことが回復の重要なキーを握っているのです。
こういった家族も含めた認知行動療法的なアプローチが摂食障害の治療には有効なことがわかっています。
部活やスポーツチームあるいは芸能の指導者は、若い世代の栄養や心の問題への理解が必要不可欠です。特に美しさが重要視されるようなフィギアスケートや新体操といった競技、あるいはダンスやバレエの指導者などによるダイエットの強要は、教え子の将来の健康リスクを大きく高める元凶です。
実際、激しい運動と過度なダイエットあるいは精神的なプレッシャーによって、多くの若い世代のアスリートやバレリーナの無月経はひそかな問題となっています。前述のように無月経は、女性ホルモンの低下が要因ですが、無月経が継続すると、将来的に子宮体がんのリスクが増し、一方、女性ホルモンの低下によって将来、骨粗鬆症になるリスクも大幅に増加します。特に骨密度は、18歳をピークに、その後は低下の一途をたどるため、十代に骨密度が低下するような状態があると、一生骨粗鬆症のリスクを抱えることになります。
◆健康であることが何より美しい!
近年は、SNSによって、痩せているアイドルの動画や写真を見る機会が増えており、若い世代の栄養状態に影響を与えています。ルッキズムの蔓延も深刻です。パリコレのモデルの痩せすぎ問題が取り上げられた時期もありましたが、現状はなかなか改善しません。
健康であることが何より美しい!
若い世代のみなさんが溌溂と日々を過ごしてもらえたらなと切に願いますが、私たちMEdit Labも医学にまつわる教育活動を通して、健康の素晴らしさ、重要性を伝えていきたいなと思います。
◆参考URL
摂食障害はどんな病気? | 摂食障害について | 摂食障害情報 ポータルサイト(一般の方)
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投稿者プロフィール

- 趣味は読み書き全般、特技はノートづくりと図解。一応、元バレリーナでおしゃべり(おえかき)病理医。モットーはちゃっかり・ついで・おせっかい。エンジニアの夫、医大生の息子、高校生の娘、超天然の母(じゅんちゃん)、そしてまるちゃん(三歳♂・ビション・フリーゼ)の5人+1匹暮らし。
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