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I♡ナース COLUMN
2026.03.05
2026.03.05
看護師のコミュ力はすごい!「トランスカルチュラル・ナーシング(文化を越える看護)」
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最近、日本の病院には外国人の患者さんが増えています。観光や仕事、留学など背景はさまざまですが、慣れない国で入院生活を送ることになる人も少なくありません。厚生労働省も、外国人患者の受け入れ体制の整備を重要な課題として挙げています。

病気になるだけでも心細いもの。そこに「言葉が通じない」という不安が重なると、その孤独はさらに大きく…。

痛みをうまく説明できない。

医師の説明が十分に理解できない。

宗教や文化の違いから、食事や治療に戸惑う。

そんな状況の中で、患者さんのそばにいるのが病棟看護師です。

■文化を理解しようとする姿勢

看護には「トランスカルチュラル・ナーシング(文化をこえて行う看護)」という考え方があります(Leininger, 1991)。人はそれぞれ、育ってきた文化や宗教、家族観、価値観を持っています。同じ病気でも、その受け止め方は人によって違う。その違いを理解しようとする姿勢が、文化的ケアの出発点です。

実際の医療現場では、宗教上の理由から、食べられないお食事がある患者さんによく出会います。豚肉が食べられない、牛肉が食べられないなど…。その際は、禁止食として電子カルテに登録し、配膳されることの無いよう、給食を管理します。入院前面談で電子カルテに反映してもらえる場合もありますが、入院時にもアレルギーとともに患者さんと確認。これは日本人でも外国人でも同様ですが、特に文化的、宗教的な背景が異なる外国人の患者さんには重要な過程です。

文化の違いを「問題」として見るのではなく、「その人らしさ」として受け止めること。それが看護の土台になります。

■「やさしい日本語」という実践

その実践のひとつが、「やさしい日本語」。やさしい日本語とは、難しい言葉を使わず、短く、わかりやすく伝える工夫のこと。

「絶食です」ではなく、「今日はごはんを食べません」

「安静にしてください」ではなく、「ベッドで休んでください」

専門用語をそのまま伝えるのではなく、相手に届く言葉に言い換える。それだけで、安心感は大きく変わります。英語が完璧に話せなくてもかまいません。大切なのは、「伝わっているだろうか」と立ち止まり、言葉を選び直す姿勢です。

ちなみに、優しい日本語は外国人の患者さんだけではなく、小児から高齢者まで幅広く理解しやすい言葉。私も日ごろから人に何かを伝えるときは、言葉を短く切って、簡潔に伝えることを意識しています。看護師として働くようになってから身についた技術です。看護師は11秒でも患者さんのケアに時間を使いたい、チームでの情報交換の時間は、いかに短時間で確実に伝えるか、少しの時間でも無駄にできません。

■アドボケーターとしての役割

さらに病棟看護師は、アドボケーター(患者の代弁者)でもあります。言葉の壁によって思いを伝えにくい患者さんの代わりに、表情やしぐさ、不安そうな沈黙から気持ちをくみ取り、医師やチームに伝えます。

「説明が十分に伝わっていないかもしれません」

「宗教上、この治療に不安があるようです」

こうして声を届けることは、患者さんの尊厳や権利を守ることにつながります。

■母国語がベンガル語の患者さん

つい最近私は、ベンガル語が母国語の患者さんが入院されて翻訳を部署から頼まれた経験をしました。やさしい日本語であれば通じるのですが、医療専門用語は難しくて理解できない患者さんへの対応について、病棟の師長・主任から相談がありました。院内でもベンガル語を話せる医療者は皆無。手術は3日後に迫っている…。

急ぎ、患者さんが渡された説明書、同意書、入院してから退院するまでの行程表(クリニカルパス)などなど、全て翻訳しました。その枚数、なんと50枚近く…。直近で使うものを優先に翻訳、文章に間違いがないかテキストを読み込ませて日本語に訳す、を繰り返す。何とか患者さんの入院中に、その時に必要な情報を渡すことが叶いました。

患者さんと直接関わる機会がめっきり減った私にとって、患者さんの「これならわかる!」の言葉と笑顔は最高のプレゼントでした。最近は翻訳サービスも充実して、医療用語も難なく翻訳可能。患者さんには目の前にある文書をその場で翻訳してくれる「Googleレンズ」をご紹介し、レクチャーも終えました。

翻訳を終える頃には、少しベンガル語を読めるようになったことにも驚き!余談ですが、ベンガル語は日本語と文法が近いため、単語が分かれば読めるようになるのです。

■これからの病棟看護に求められる力

病棟は、患者さんにとって“生活の場”です。食事や睡眠、家族とのつながりなど、その人の人生の一部がそこにあります。外国人患者の増加は、看護に新しい課題をもたらしていますが、同時に「人と向き合うとはどういうことか」をあらためて考えさせてくれます。

言葉を越えて理解しようとすること。

文化を越えてケアを提供するということ。

そして、声にならない思いを大切にすること。

これからの医療には、多様な人々とともに生きる視点が欠かせません。病棟看護師のコミュニケーション力は、その中心にあるものと言えるのではないでしょうか。

 

◆参考文献◆

1.文化的ケア(トランスカルチュラル・ナーシング)

マデリン M. レイニンガー著/稲岡文昭監訳『レイニンガー看護論 文化ケアの多様性と普遍性』医学書院

2.アドボカシー(患者の代弁者)

日本看護協会ホームページ,臨床倫理のアプローチ

https://www.nurse.or.jp/nursing/rinri/text/basic/approach.html 2026.2.16

3.外国人患者の増加・受入体制

厚生労働省「医療機関における外国人患者の受入に係る実態調査結果報告書」

https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001604292.pdf

4.やさしい日本語

医療×「やさしい日本語」研究会 誰にとっても優しく易しい ホームページ

https://easy-japanese.info/

投稿者プロフィール

村上 愛実
村上 愛実
勇気とガッツと愛嬌で難病を克服し、看護師の道へ。想像力と創造力がモットーで、プログラミングや動画編集もできちゃうアーティスト。愛犬と爆睡してエナジーチャージ。仲良しの妹は臨床検査技師。