前回のコラムでは、ウェブワーク「医学っぽい自己紹介」の傑作選を読んでいただきました。自分を1匹のホモサピエンスとして、医学・生物学的に眺める透徹したまなざしがかっこよかったですよね。
今日は、それとはまた違うアプローチの自己紹介を抜粋して鑑賞します。「メタファー」を使った作品たちです。
「メタファー」とは比喩のこと。「見立て」とも言いますね。あるモノを別のモノになぞらえるという表現の手法です。たとえば、朝ごはんに食べる「目玉焼き」。あれは、鶏の卵をフライパンで焼いた料理ですね。決して、なにかの目ん玉を焼いたものではありませんよね(だとしたら怖すぎる)。割った卵の様子を、「目玉」という別のモノに見立てた表現であるわけです。
こういう作品が、MEdit Labワークショップ参加者さんから出てきたんですよ。たとえば、こちら。
●私は、いつも授業中寝ている親友にとってのAEDです。(HCさん)
どうですか、こちら。ウメ子ぞっこんの一作です。野暮を承知でこの作品を解説してみましょう。
もちろん、HCさんは人間ですから、AED(自動体外式除細動器)という医療機器ではありません。AEDとは、突然の心肺停止を起こして倒れた人に電気ショックを与え、心臓を正常なリズムに戻すためのもの。つまり「倒れた人を、回復させる」という《機能》がAEDにはあるわけです。HCさんはその《機能》を「授業中にぶっ倒れているお友達」を起こすことに重ねたのです。
HCさんは、AEDとご自身の《機能》の共通点を見出したのです。そこが素晴らしかった。
比喩とは「まったく関係なさそうなものなのに、じつは似ている」ということ見つけたとき、とても効果的なものになります。
ね、「メタファー」って奥が深いでしょう。おもしろいでしょう?
ほかにも名作がざくざくありました。
■薬にたとえるなら?
●私は、3歳の娘を笑顔にするための特効薬です。(しんしんさん)
●私は、使わないまま期限が切れていく幸運な常備薬です。(mkさん)
母は、子どもにとっての「笑顔薬」。なんと微笑ましいことでしょう。「3歳の娘は、いつも母である私を見て笑うんです」と表現するよりも「特効薬」と見立てるほうが、不思議とイメージが伝わりやすい。これがメタファーの力です。
きっとこれをお読みになっているみなさんも、誰かにとって何らかの「薬」です。友達を元気にする滋養強壮剤かもしれないし、先生を怒らせる劇薬かもしれない。「私は◯◯に効く薬です」と自己紹介するなら、みなさんはどんな薬になりますか?
mkさんもご自身をお薬に見立ててくださいました。しかもちょっと凝ってます。「幸運な常備薬」ですって。お薬は、たしかに頭が痛いとか気持ちが悪いとか、なんらかの不具合を治すために使うもの。出番がないこそが幸せとも言えるわけですね。
■血液中の成分にたとえるなら?
●私は、賃貸住宅という細胞に奉仕する赤血球です。(mkさん)
●私は、会社の中でひっそりと働くフィブリノゲンです。(mkさん)
自分を薬に見立てるほかにも、自分を血液成分に見立てるという方法もありました。見立て名人mkさんは、「自分のおうち」をひとつの細胞ととらえたり、勤務先全体を血液になぞらえたようですね。
細胞というのも、さまざまな《要素》が集まってできたひとつのシステム。(ワークショップ第1回での「システム思考」レクチャーを思い出しますねえ)。あるシステムの一部としての自分や他人を考えてみると、「赤血球っぽい人」「白血球っぽい人」「マクロファージっぽい人」なんてメタファーが出てきそうですね。
そういえば『はたらく細胞』というマンガがあります。ああいう作品も、細胞を人に見立てるというメタファーを使ったもの。ひとつの参考になりそうです。
■医療っぽく見てみたら?
●私はストレスを溜めている悲しみの点滴バッグです。(ふっく船長さん)
●私は、感染性不眠症が怖いあくび生産機です。(けんけんさん)
さて、最後はユニークな言葉を繰り出したおふたりの作品です。人体をモノに見立ててくださいました。
ふっく船長さんは、悲しみの点滴バッグ。これ、うまいなあと思ったんです。点滴バッグからぽつぽつと落ちる水滴を、人間の目からこぼれる涙に重ねたわけですよね。患者さんのとなりにぶらさがる点滴バッグが、泣いているようにも見えてきました。
けんけんさんの作品も、見事なニューワード揃い。この作品は、自分を「あくび生産機」とマシンに見立てたところにグッときました。この乾いたまなざしがあると、私たちの営みもあらたな角度から見られます。「感染性不眠症」というオリジナルな病名もよくぞ生み出しました。みなさんも、つられてなにかしちゃうことも「感染性◯◯」と名付けてみては。
ということで、傑作選をお送りしました。人体に対する見方が、ちょっと揺さぶられたのではないでしょうか。
■このワークの狙い
「医学っぽい自己紹介」というお題に取り組んでいただいた背景を、再度おさらいしておきましょう。
MEdit Labリアル&ウェブワークでは、みなさんお一人おひとりが「医学にまつわるゲーム」をつくります。「医学」と聞かされると、難しそう!ってたじろいだかもしれません。けれど、「医学っぽい自己紹介」に挑戦してみると、意外と「医学」の扱う範囲が広いことが実感いただけたかなと思います。
25名のみなさんの回答を分析すると、大きく4つのカテゴリに分類されました。
1.生物的属性 ……生物として自分を見たらどうなるか
2.病気的属性 ……患者として自分を見たらどうなるか
3.社会的属性 ……社会の構成員として自分を見たらどうなるか
そして、1から3を比喩的に表現する
4.メタファー ……自分の《機能》などを比喩で表現したらどうなるか
というものもありました。
ご自身の《要素・機能・属性》をさまざまな角度から眺めることで、みなさんお一人おひとりが興味をもって取り組める「医学のテーマ」が見つかるはずです。第2回ワークショップでは、いよいよ、どんなテーマを扱うのか決めます。ワークショップ参加者のみなさんは、ぜひ扱いたいテーマを考えておいてくださいね。
過去記事はこちらから
◆【誰でも参加OK!】医学っぽい自己紹介をしてみよう
◆私は元受精卵!医学っぽい自己紹介傑作選~医学・生物篇~
投稿者プロフィール
- 聞き上手、見立て上手、そして何より書き上手。艶があるのにキレがある文体編集力と対話力で、多くのプロジェクトで人気なライター。おしゃべり病理医に負けない“おせっかい”気質で、MEdit記者兼編集コーチに就任。あんこやりんご、窯焼きピザがあれば頑張れる。家族は、猫のふみさんとふたりの外科医。