医学部を志望する場合、高校では理系コースに進むのが常ですが、医学は、理系科目でも文系科目でもありません。そのどちらも必要な“人間を学ぶ学問”です。そして、医学部で学ぶ科目の中には、人間をミクロのレベルで勉強するものから、社会的な視点で観察するものまであります。
◆医学部の勉強は暗記?
医学部の勉強は、「結局、暗記ではないか」という人もいますが、そんなこともありません。もちろん、医学部で学ぶ知識は膨大であり、医学生は数えきれないほどの医学用語を覚える必要があります。でも、それらの医学用語をばらばらに知っているだけではなく、用語同士の関連をふまえ、身体全体の構造や機能を説明することができなければ、健康な時の身体のしくみも、病態についても理解できません。
しかし、“とにかく暗記するしかない”という医学用語が、あるんですねぇ、これが…。
通常、病名はいくつかの医学用語を組み合わせたものが多いので、病名からどんな病気なのか、類推することが可能です。例えば、簡単なところでいえば「胃癌」という言葉は、「胃」という臓器の名称と「癌」という病理学用語を組み合わせたものですから、「胃にできた癌」というふうに理解できます(医学生は、病理学総論を勉強する中で、癌という言葉が、「上皮性の悪性腫瘍である」という医学的定義を学ぶので、一般の方より胃癌という言葉に対する理解度はより深まりますし、さらに、病理医はその癌細胞の形などミクロの特徴までありありとイメージできます)。「びまん性大細胞型B細胞リンパ腫」という病気も、ある程度の医学知識がある状態で、びまん性、大細胞、B細胞、リンパ腫、と区切って読んでいけば、大きいB細胞がびまん性に増殖するリンパ球のがんであることは、想像できます。
◆川崎病ってどんな病気?
しかし、「川崎病」と言われても、どんな病気なのか、さっぱりイメージがわきません。こうなると医学生もお手上げで、定期試験前に無理矢理覚えることになります。
川崎病は、地名にちなんだ病名ではなく、小児科医の川崎富作先生が1967年に50例の症例をまとめて発表したことにはじまり、今では世界的に「Kawasaki disease」として通る病名になっています。一応、別名「小児急性熱性皮膚粘膜リンパ節症候群」があり、ひとつひとつの単語の意味から病気の概要がわかりますが、さすがに長すぎますね。
実は、川崎病は、乳幼児の約70人に1人の割合で発症する比較的頻度の高い病気です。2018年には、患者数が1万7364人と過去最多となりました。はっきりとした原因がわかっておらず、なんらかの感染症に罹ったことでそれが免疫を過剰に刺激し、血管などを免疫細胞が攻撃することによって生じるのではないかといわれています。以下の6つの主要な症状が知られています。
【川崎病の6つの主要症状】
1.発熱
2.両側眼球結膜の充血(白目が赤くなる)
3.口唇の紅潮、いちご舌、口腔咽頭粘膜の発赤(唇や舌が真っ赤に)
4.発疹(BCG 接種した部位が赤くなる)
5.手足の指先の変化:
急性期;手足の浮腫、紅斑(手足がむくんだり赤く腫れる)
回復期;指先からの膜様落屑(指先の皮がはがれてむける)
6.急性期における非化膿性頸部リンパ節腫脹(首のリンパ節が腫れる)※「川崎病診断の手引き 改訂第 6 版」を小倉が一部平易な文章に改変
川崎病の症状は、適切な治療を受ければほとんどは数日以内に治まるのですが、時に、血管の炎症が重大な合併症につながることがあります。川崎病で特に注意が必要なのは、心臓に酸素や栄養を届ける冠動脈という血管にできる「冠動脈瘤」という合併症。血管に瘤ができるのですが、瘤の壁はもろいため、出血を起こしたり、瘤の部分で血が固まって血栓を引き起こすと、心筋梗塞などを起こす可能性が高くなります。冠動脈瘤を予防するためには、早期発見、早期治療がとても大切なので、小さなお子さんを子育て中のお母さんにはぜひとも知ってもらいたい病気です。
◆新型コロナウイルス感染と川崎病の関係?
さらに、コロナ感染後に、川崎病に似た症状を起こす後遺症のような病気が報告されており、「MIS-C=小児多系統炎症性症候群」と言われています(この病名は、ドクターの名前がついていないですが、医学用語が難解でイメージしにくいですね)。
最近は、コロナ禍を経験し、後遺症を含め、コロナ感染が関与しているのではないかと考えられる病気の報告が相次いでいます。パンデミックの対策には、マスクや手洗いを基本とした感染防御がなんといっても大切になるのですが、俗に“清潔病”とも呼ばれる、感染症に暴露されていないことによる自己免疫性疾患との関連性も気になるところ。そこに関しては、また別のコラムでお話できればと思います!
◆参考資料◆
原因不明の「川崎病」 6つの症状と診断・検査、心臓の合併症を防ぐ治療 | NHK健康チャンネル
新型コロナ 感染後の子どもに相次ぐ「MIS-C」とは | NHK | WEB特集 | 新型コロナウイルス
投稿者プロフィール
- 趣味は読み書き全般、特技はノートづくりと図解。一応、元バレリーナでおしゃべり(おえかき)病理医。モットーはちゃっかり・ついで・おせっかい。エンジニアの夫、医大生の息子、高校生の娘、超天然の母(じゅんちゃん)、そしてまるちゃん(三歳♂・ビション・フリーゼ)の5人+1匹暮らし。
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