ふしぎな医学単語帳
ふしぎな医学単語帳 COLUMN
2024.04.25
2024.04.25
ヒトメタニューモウイルス
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◆ヒトメタニューモの襲撃

やつがしんしん一家を襲ったのは、2週間ほど前のこと。まずは1歳の息子さんを起点に家庭内感染を成就させ、ついには、一家の子育てサポートなどを一手に引き受ける、影の主の“ほっち母”(しんしんの義理のお母さん)に襲い掛かり、一家はしばしの機能不全に。しんしん本人もいつもよりオクターブ高めの鼻声と止まらない咳に悩みながら、寝込む義理のお母さんを気遣いつつも子育てと仕事でへとへとに。疲れもあいまって、なかなか症状は改善せず、やつがしつこい性格であることも判明。しんしん一家では「やつ、おそるべし!」となっているようです。

しんしん一家を震撼させた“やつ”はヒトメタニューモウイルス。乳幼児の呼吸器感染症を起こすので有名なRSウイルスと同じニューモウイルス科に属するウイルスの一種(正式には、「パラミクソウイルス科、ニューモウイルス亜科、メタニューモウイルス属」)で、2001年にオランダの研究グループによって発見されました。英語名は「human metapneumovirus」で、略称、「hMPV」。メタニューモウイルスの中のヒトに感染するタイプ、という意味です。それまでは、通常の風邪を引き起こすウイルスの“どれか”ということだったのですが、2001年に発見され、さらに、検査キットなどが発売されたことでだんだんと知られるようになりました。

晩冬から早春に流行する呼吸器感染症で、ほとんどの人が5歳くらいまでに初めての感染を経験するのですが、その後、何度も感染します(あえて調べないことも多いので、自分が何回も感染していることを知らない場合も多そうです)。

RSウイルスは、昔からよく知られていて、乳幼児に時に肺炎を引き起こすものとして、小児科の教科書にはでーんと記載がありますが、このヒトメタニューモウイルスもRSウイルスと症状が似ており、しかも感染力が強いこともあいまって、保育園で集団感染を起こしたり、場合によっては免疫能が低下した高齢者の多い介護施設などで集団感染を引き起こすこともあったりします。

◆ただの風邪から〇〇感染症へ

COVID-19パンデミックが起きてから、咳や発熱の症状がある患者さんが、いったい何の感染症なのか、調べなくてはいけない機会が増えてきました。インフルエンザなのか、コロナなのか、RSウイルスなのか、ヒトメタニューモウイルスなのか、手足口病なのか、プール熱なのか、ヘルパンギーナなのか…。インフルエンザとコロナに関しては、届け出が必要な五類感染症で、保育園や学校に出席することが一定の期間できなくなりますので、似たような症状でも、学校や仕事にいけるかどうか大きな違いです!

最近では、迅速キットがどんどん開発され、複数のウイルス感染症を一度に測定できるものも登場してきました。“ただの風邪”とひとくくりにされるウィルス感染症がだんだんと明らかになってきていますが、一方で、COVID-19のように、新たな感染症が登場する可能性も増しています。

とにかく感染対策の大原則は、こまめな手洗いです。COVID-19で学んだことをこれからも活かしていきたいですね。

菊田英明「総説 3.ヒトメタニューモウイルス」ウイルス56, 173-182, 2006.

「学校、幼稚園、保育所において予防すべき感染症の解説」 (jpeds.or.jp)

投稿者プロフィール

小倉 加奈子
小倉 加奈子
趣味は読み書き全般、特技はノートづくりと図解。一応、元バレリーナでおしゃべり(おえかき)病理医。モットーはちゃっかり・ついで・おせっかい。エンジニアの夫、医大生の息子、高校生の娘、超天然の母(じゅんちゃん)、そしてまるちゃん(三歳♂・ビション・フリーゼ)の5人+1匹暮らし。