久しぶりの「ふしぎな医学単語帳」では、「直美」について解説したいと思います。渡辺直美さんじゃなくて、“ちょくび”、直接、美容外科、の方ですよ。今や内閣総理大臣の高市早苗さんも口にする言葉になるほど、医療界での問題点として取り上げられる「直美」。卒業した医学生がどのように一人前のドクターになっていくのかも含め、少し詳しく説明してみたいと思います。
◆直接、美容外科ってどういうこと?
“直接”とは、いったいどういうことでしょうか。これは、医学部卒業後、2年間の初期臨床研修を修了した若い医師が、基本領域として定められた専門研修プログラムに登録することなく、美容外科クリニックに直接、就職することをいいます。
連載コラム「おでかけしんしん診療すごろく」でも、医師のキャリアについて色々と説明を重ねてきていますが、医学部を卒業し、無事、医師国家試験に受かった医学生は、マッチングで決定した研修病院で2年間の初期臨床研修をすることが義務づけられています。現行の制度では、基本的にこの初期臨床研修を修了しなければ、保険診療に携わることができず、一般病院への就職が難しくなります。
この初期臨床研修の2年間において、医師として最低限必要な知識と技能を習得していくのですが、現在の医学は非常に進歩しているため、多くの研修医は、初期臨床研修を修了したあと、自分が興味を持つ専門領域を選び、さらに専門的な知識と技能を磨くために、研鑽を重ねます。
専門領域は、現在、専門医機構という組織が、内科や外科や小児科や私の専門領域の病理など、19の基本領域を定めています。大学病院をはじめとした様々な医療機関がそれぞれ専門医として学ぶべきプログラムを用意しており、研修医たちは、いくつかのプログラムの中からここで学びたいな!と思う医療機関を選び、アプライするというわけです。その後、プログラムに登録されると、3年目以降、その医療機関で定められた形での専門研修を進めていくことになります。
「直美」の場合は、上記のプログラムに登録せずに、美容外科クリニックに就職する、ということなのです。
◆何が問題なの?
各美容外科クリニックもそれなりの研修プログラムを用意していたりすると思いますが、専門医機構が定めているような、あらゆる疾患を経験し、その知識と手技を学んでいく充実のプログラムとは大きな差があります。
高度な技量を有した美容外科医の多くは、通常は、基本領域のひとつである「形成外科」の専門医を有し、その後にさらに専門を極めるというかたちで、日本美容外科学会が定める「美容外科」の専門医(「サブスペシャリティ」といったりします)を取得するべく、研鑽を重ねた実績があります。その研修の充実ぶりと比較すると、美容外科クリニックの研修は限定的で短期間であると言わざるを得ません。
ちなみに、基本領域のひとつである「形成外科」ですが、日本形成外科学会のホームページには、形成外科医について以下のように説明されています。
形成外科は臨床医学の一端を担うものであり、先天性あるいは後天性に生じた変形や機能障害に対して外科的手技を駆使することにより、形態および機能を回復させ患者のQuality of Lifeの向上に貢献する外科系専門分野です。
ちょっとおカタイ説明なので、一般向けには、「キズや傷跡を治すプロフェッショナルですよ」と簡単な説明も加えられています。
形成外科の専門医になるにはどんなプログラムが用意されているかというと、8つほどの分野に分けて、300ほどの多彩な症例を経験することが求められています。怪我による傷、その傷跡、皮膚や皮下にできた腫瘍やなんらかの原因による潰瘍、あるいは先天的な奇形に対する治療など、その疾患の種類は膨大です。それらをすべて経験すると、専門医試験を受験する資格が与えられ、その試験にパスすると晴れて形成外科医になれるのです。
さらに美容外科医は、形成外科医となってその先の話!となるのが、いわゆる王道なんですね。
◆直“美”に限らず
このように、専門医になるためには、形成外科医に限らず、どんな分野を選んでも一定の期間、充実の診療経験が必須になります。皮膚科であろうと内科であろうと小児科であろうと、そして病理であろうと、腰を据えて勉強し、腕を磨くことが必要です。
これからは医師の過剰供給の時代が来るともいわれています。信頼できる医師だけが生き残れる厳しいけれど当たり前の状況はすでに到来しています。結局、どんな専門に進むとも、いばらの道。努力して患者さんに真摯に向かう医師がこれまでもこれからも求められていることは確かです。
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投稿者プロフィール

- 趣味は読み書き全般、特技はノートづくりと図解。一応、元バレリーナでおしゃべり(おえかき)病理医。モットーはちゃっかり・ついで・おせっかい。エンジニアの夫、医大生の息子、高校生の娘、超天然の母(じゅんちゃん)、そしてまるちゃん(三歳♂・ビション・フリーゼ)の5人+1匹暮らし。
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