おしゃべり病理医のMEditラジオ COLUMN
MEditLabのポッドキャスト番組「てゆーか医学」の第6回放送は、「ゆるっとMEdit」、通称「ゆるメディ」をお届けします。
今回は、五月病の季節に読みたい2冊、菅野仁『友だち幻想――人と人の〈つながり〉を考える』と、谷川嘉浩『人生のレールを外れる 衝動のみつけかた』をご紹介します。
おしゃべりの内容は、
・そもそも「新書」って何?
・ちくまプリマー新書と岩波ジュニア新書
・「みんな仲良くしましょう」は本当に必要?
・仲良くしたいけど、ひとりでもいたい
・ルールがあるから自由が生まれる
・「将来の夢は何ですか?」という問いの難しさ
・「衝動」と「偏愛」と「好き」と「数寄」
・衝動を押し殺すことが、むしろリスクになる
・『チ。――地球の運動について』と衝動
・大谷翔平もまた、衝動の人?
などなど
新生活にちょっと疲れたとき、「みんなと仲良くしなきゃ」「ちゃんとした将来を考えなきゃ」と思いすぎると、ますます苦しくなることがあります。
そんなときに必要なのは、無理にレールに戻ることではなく、「気の合わない人とどう共存するか」「自分は何に心を動かされるのか」を、少しだけ丁寧に見つめてみることなのかもしれません。
今回も「ゆるメディ」のはずが、気づけば同調圧力、友だち、自由、衝動、人生のレールまで話が広がりました。
それでは、ごゆるりとお楽しみください。
▼その他配信先
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・YouTube:https://youtu.be/LugicabIrXs
▼チャプター
・ゆるっと話そう 「新書」って何?
・ちくまプリマー新書と岩波ジュニア新書
・友だち幻想―ー人と人の〈つながり〉を考える
・仲良くしたいけど、ひとりでもいたい
・「傷つきやすい私」とどう付き合うか
・小倉さん、若い頃に戻りたいですか?
・人生のレールを外れる衝動のみつけかた
・将来の夢は何ですか?
・「衝動」と「偏愛」と「好き」と「数寄」
・「衝動」で生きてきた小倉とQUIM
・衝動を押し殺しすことがむしろリスクになる
・序章は『チ。――地球の運動について』から始まる
・「好き」ということの解像度を上げていかなきゃ
・最近見たおすすめ「”衝動”映画」:『マーティ・シュプリーム』・『ストリート・キングダム』『1975年のケルン・コンサート』
・たとえば、大谷翔平だって
▼全文公開
●ゆるっと話そう 「新書」って何?
QUIM:
「ゆるっとMEdit」、ゆるメディ。だけどさっきも、ガチッとね、ドラァグクイーンのことを話しちゃいました。本当に「ガチメディ」になっちゃったんですけど。
小倉:
じゃあちょっと私のほうは、「ゆるめ」に話したいと思うんですけど。たぶん今、(この放送の公開は)5月だと思うんですけど、なんか新生活が始まって、5月って「五月病」っていう言葉もあるように、やっぱりちょっと疲れちゃう。
4月のうちは、新しい環境にまず慣れなきゃって、けっこう頑張って付き合っている。だけど、ゴールデンウィーク明けぐらいから、どんよりしてくる。
やっぱり、さっきのドラァグクイーンの話とか、LGBTQの話の生きづらさとかにも通ずると思うんだけど、日本ってけっこう、めちゃめちゃ同調圧力が強い。強くて、それがひとつ、本当に。
QUIM:
でしょう。
小倉:
けっこうそれが、生きづらさの、日本では要因になって。
QUIM:
海外のことはあんまり知らないけど、普通に日本で生きていたら、ちょっと思う。
小倉:
そういうふうに、今ちょっと疲れ気味の方に読んでいただきたい本を、今日持ってきました。どっちも「ちくまプリマー新書」というシリーズというか、新書のレーベルなんです。
QUIM:
2冊あるんですね。
小倉:
2冊あるんですよ。今、売れっ子の三宅香帆さんも「新書を読みましょう」って、すごくよく言っておられるんだけれども、このちくまプリマー新書は、本を読んだことがない人もいけるよっていう、大事なシリーズとして、めちゃめちゃ推しているんです。
で、そのちくまプリマー新書がどんなレーベルかっていうと、ちなみに、本屋さんに行ったことがない人って、「新書」と「文庫」と「単行本」とか、あんまりわかっていない。
QUIM:
「新書」っていうと、「新刊」の本だと思っている人がいるんだけど、新書って、新書サイズみたいなのがあるんですよね。ちょっと縦長で。
小倉:
だいたいの本屋さんでは、文庫の横っちょにある気がする。
QUIM:
ああ、そうですね。ちなみに、新刊の本の「新刊」っていうのも、なんていうか、必ずしも新しいわけじゃないんだよね。あれ別にね。
小倉:
そうね。たしかに、言葉の違いが難しいかもしれない。ただ、新書と文庫は覚えておくといいですよね。文庫は文庫版なので、本当にポケットサイズというか、小さなサイズで。単行本って、普通のもっと大きいサイズの本で出たものの中で、けっこう人気だったりすると、文庫化されたりとか。
QUIM:
何っていうとわかるんだろうな。たとえば、村上春樹の本とか、ほとんど文庫になっている。あとは、夏目漱石とか、三島由紀夫とか、古典って言われているようなものが文庫になっていたりする。
小倉:
新書はどういうものかというと、わりと、私を含めた何かの専門家が、普通の小説家とかじゃなくて、何かの専門家や研究者が著者になっていることが多くて。何かのテーマに対して、すごく深く知っている人が、そのテーマを掘り下げて書くっていうのが、けっこう多いかなと思うんですよね。
QUIM:
そうだね。雑誌にちょっと近い部分はあるんだよね。テーマ的に。ちょっと食べやすくできているというか、つかみたくなるんだけど、雑誌とかよりも中身は濃くて、ネット記事とかでもわからないような内容を、わりと深掘りしている。切り口は面白いんだけど、中身はちゃんと濃い。
小倉:
すごいのはさ、各出版社から毎月4冊とか5冊とか出てるんですよ。
QUIM:
大量に出ている。
●ちくまプリマー新書と岩波ジュニア新書
小倉:
ちくまプリマー新書は、筑摩書房が出している新書です。筑摩さんが出している新書には2つあって、ちくまプリマー新書と、ちくま新書。
QUIM:
小倉さんの本『細胞を間近で見たらすごかった 奇跡のようなからだの仕組み』が出たのが、ちくま新書だね。
小倉:
プリマー新書はだいたい毎月2、3冊出しているんだって。それで、ちくま新書のほうが、だいたい5、6冊かな。月にけっこう出るんだよね。そのプリマー新書というのは、三宅さんも読みやすいよって言っておすすめしていた本なんだけど、確かに私も編集者さんから教えていただいたんです。どんな本かというと、一応、読者の対象は中学生からでも読めるくらい。
簡単で、わかりやすい文章で書かれているものが、このちくまプリマー新書には多いんだよね。だから読みやすい。入門書みたいなものがたくさんあるから、何かについて「よくわからないな」と思ったら、このちくまプリマー新書の列というか、本棚のところに行って探すと、すごく簡単に、そのテーマについての入門的なものが置いてあることが多い。
QUIM:
確かに、この前「たくさんのふしぎ」を紹介したけど、あれは小学生向けだけど、中学生ぐらいの感じで説明している本を探すなら、ちくまプリマー新書とか、岩波ジュニア新書とか、あの辺で探すとけっこういいですよね。
小倉:
そう。私なんかも、全然専門外のことをちょっと勉強しようかなと思ったときは、プリマー新書からでもいいかなと思う。
QUIM:
いや、全然いいですよね。
●友だち幻想―ー人と人の〈つながり〉を考える
小倉:
とはいえ、今日は5月病に関連する、良さそうな本がちくまプリマー新書にたまたま2冊あったので、ご紹介したいんですけれども。1冊は、菅野仁さんの『友だち幻想――人と人の〈つながり〉を考える』という新書です。
この新書ね、すごくて、大ベストセラー。2008年の3月に初版第1刷が出てから、もう20年ぐらい経っています。まあ、ともかく大ベストセラーですね。
QUIM:
そうなんですね。
重版って言いますけどね。版を重ねるっていう。重版しない本もたくさんある中で、29刷っていうのはちょっとすごいですね。
小倉:
で、この本はすっごく、わりと薄め。読みやすい。
QUIM:
確かにここから見ていますけど、もう1つはけっこう分厚い感じがします。
小倉:
そうですね。160ページぐらいで、行間もすごく空いていて。これ、ちくまプリマーによっても行間が違うんですけど。
QUIM:
違うんだね。
小倉:
紙がね、わりと軽い素材でできているんだけど、紙の一枚一枚は厚めなんで、あんまりページ数が多くないような設定で、著者も頑張って書いている本なんだと思うんです。
これは要するに、本当に友だちが大事って思いすぎて、友だちと一緒にいることがきつくなっている中学生、高校生には読んでほしい本なんです。
それには、それぞれには全然罪はなくて。例として出てくるのは、「一年生になったら」ってあるじゃないですか。「友だち100人できるかな」みたいな感じで、けっこう小学校から「みんなと仲良くしましょう」って先生が言うじゃないですか。あれ自体がきついって、菅野さんはおっしゃっているんです。
QUIM:
なるほどね。
小倉:
みんなと仲良くなるなんて無理だと。
QUIM:
無理だよ。
小倉:
それが「友だち幻想」なの。
QUIM:
本当に大人になると、だいたいみんな喧嘩してるよね。もうちょっと仲良くしろよと思うのは、今の戦争とかを見ていると。
小倉:
本当だよね。だから基本、そんなのは無理で、逆に気の合わない人でも、なんとか一緒にやるという能力を身につける方向にシフトしたほうがいい。「みんなで仲良くしましょう」という投げかけ自体が、同調圧力を生んでしまっているということも言っているんだよね。
QUIM:
確かにね。仲良くなれると思って友だちと接するか、仲良くなれないだろうなと思って接するかによって、けっこう変わるよね。別に、自分のことを責めなくなるじゃん。「仲良くなれなかった。しょうがないな」って。
小倉:
そうですね。「しょうがないな」っていうところから始まって。
人間って、1人でも生きていけると思えるんだけど、でもやっぱり人とつながりたいという思いもあって。そのアンビバレントな気持ちは誰しも持っているから、まず「そういうものだ」というところから始めたほうがいいと。
●仲良くしたいけど、ひとりでもいたい
QUIM:
ドラァグクイーンの話をしたあとで、この話も、ちょっと面白いね。全く逆のようで。だって、ドラァグクイーンって、理解されないことを前提に生きているじゃん、たぶん。だから、それにも通ずるのかな。
小倉:
そうね。もう1つ、これもたぶんドラァグクイーンの話と通ずると思うんだけど、「異質性」って言って。相手も私と同じ、みたいに思いすぎるんじゃなくて、自分とは違うということを前提に考えないといけない。それこそ最近、すごく悲惨なストーカーの事件とかあるじゃないですか。あれって、相手のことを同質化しちゃうというか、自分と同じだと思うから、ストーカーみたいなことをしてしまって、相手を傷つけたりする。
そもそも、他者が自分とは違うという異質性を大事にするとか、異質性を意識していないままいくと、そういうふうになってしまうと言っていて。ちょっと今話すと、難しい話がこの本に書かれているように思われてしまうかもしれないんだけど、文章はすごく、わかりやすく、優しい文体で書いてあります。
たとえば、さっきの「みんな仲良く」という話のところなんだけど、「みんな仲良く」という理念も確かに必要かもしれませんが、気の合わない人と併存する作法を教えてあげたい。そのほうが、今の現実に即して新たに求められている教育ではないかと思う、というようなことを書いていて。
非常にわかりやすいし、読んでいて、「あ、私も友だちと仲良くしたいけど、1人でもいたい」みたいなアンビバレントな気持ちに対して悩んでいた人が読んだときに、「みんなそうなんだ」と思えるかなとは思うんですよね。そう。だから、やり過ごすという発想が必要だよとかね。
QUIM:
確かに、真面目に考える人ほど、そういうところでつらい思いをしちゃうのかもしれないね。
●「傷つきやすい私」とどう付き合うか
小倉:
あとはね、一方で、ルールというものがないと自由が生まれないって書いてあるんですよ。どういうことかというと、「これさえ守れば、あとは自由」という感じで、自由とルールはワンセットなんだと書いてあって。
ルールを大切に考えるという発想は、規則を増やしたり、自由の幅を少なくする方向にどうしても考えちゃうんだけど、そういうことじゃなくて、むしろ逆で。ルールというのは、できるだけ多くの人に、できるだけ多くの自由を保障するために必要なものだと書いてあって。
それは確かにそうだし、松岡(正剛)さんも「ルールがある自由」という話は、すごく編集的にもされていたじゃないですか。そこにも通ずるかなとは思うんです。
いじめの話とかも書いてあって。いじめというのは、やっぱり明らかなルール違反で、それがあると自分の自由も侵食されるという話も書いてあるんだよ。だから、そんな感じに、学校自体はやっぱり不思議な場所で。なんとなく「みんな仲良くしなさい」みたいな同調圧力をかけられている中で生活していかなきゃいけないから、その中でどうやって生き抜くか、みたいなことがわりと書いてある。優しく書いてあるかなっていうのが、多分これを読んで思うところで。
あとね、「傷つきやすい私」との付き合い方をどうしたらいいかとか。あんまり言っちゃうと内容を全部話すことになるんだけれども、「私と同じ人」を探すんじゃなくて、「信頼できる、自分とは考えの違う人」を見つけましょうとか、そういったことも書いてあるんだよね。
QUIM:
すごく、なんかちょっと話しかけるように書かれているんですね。
小倉:
そうですね。
この菅野さんというのは、東北大学を出られて、宮城教育大学の教授をされていて。専攻は社会学なので、コミュニケーション論とか、そういったものを専門にされていた先生なんですよね。今まで『教育幻想』(ちくまプリマー新書)とか、あとゲオルク・ジンメルやマックス・ウェーバーとか、古典社会学の現代的な読み直しをいろいろやられていた方で。子どもをどうやって教育するか、みたいな著書もあるんですけれども。残念ながら、けっこう若く、2016年にお亡くなりになっていて、56歳ですね。でも、この本はその後もすごく読み継がれていて、名著だと思うので、今ちょっと疲れている人、学校生活に疲れている人にはおすすめかなと思うんですけれども。
QUIM:
意外とないのかもしれないですね。こういう本がね。
●小倉さん、若い頃に戻りたいですか?
QUIM:
小倉さん、ちなみにどうなんですか? その「友だち幻想」というか、これまで生きてきた中で、そういうところで。
小倉:
そうね。学校、そんなに好きじゃなかったですね。
QUIM:
僕も好きじゃなかった。
小倉:
わりとおひとり様が好きだったんで。1人っ子っていうのもあるから、1人遊びも好きだったのかもしれないね。だから、気の合わない人と一緒にいるぐらいなら、1人で何かをやりたいというタイプ。まあ、そういうのはあるかなと。けっこうマイペースなんでしょうね。
QUIM:
ルールがあるのかな。その話でいうと、ある種のルールみたいな、マイルールもある。
小倉:
マイルール、すごい大事だと思うけどね。マイルールに従っているところもあるかもしれなくて。だから、確かに中学校が一番つらかったなと思う。
QUIM:
高校もつらかった?
小倉:
いや、みんな多分、中学生って一番大変だよね。自分も未熟だしね。私はやっぱり今が一番楽しい。
QUIM:
まあ、俺もそうかな。若いときに戻りたいっていう話あるけど、全く戻りたくない。大変だったから。
小倉:
けっこう大変なんだよね。中高は一番大変だったんじゃないかな。
●人生のレールを外れる衝動のみつけかた
小倉:
もう1つは、ちょっとこれね、ちくまプリマー新書にしては結構激ムズかもって思うんだけど。でも、この『友だち幻想』がすごくライトというか、本当に読みやすい本なので、もうちょっと哲学的に考えたいという人がいれば。
QUIM:
五月病になりながら。
小倉:
「この人生とは一体何なんだろうか」みたいな。憂鬱なんだけど、その憂鬱の質が、「これからどうやって生きていこう」みたいな、もうちょっと長いスパンの人には、こっちがおすすめというのが。この人も、今すごく注目されている哲学者の谷川嘉浩さんの、同じちくまプリマー新書で、『人生のレールを外れる 衝動のみつけかた』という本があります。こっちはけっこう分厚めで、しかも行間がね。『友だち幻想』とは全然違う。
QUIM:
これはだから、人生のレールを外れるための本なんですね。すごい本ですね。
小倉:
でも私、これも同調圧力だなって。菅野さんの『友だち幻想』と、谷川さんのこの本は、同じ同調圧力的なことに対して、どうやってそこから抜け出せるかを書いているっていう意味で、すごく似ているんです。私、今、医学教育というか、中高生向けに出張授業とかやっているじゃないですか。MEditLabで。
だいたい、その授業ってキャリア教育の位置づけになっているの。中学3年生とか高校1年生が対象なんだけど、「将来どういった職業に就きたいかを考えなさい」という、そういう授業というか、学習の一環として、けっこう私たちが呼ばれることが多いなという印象があって。
学校の先生が、「僕たちは医療の専門家じゃないから、僕たちから本物のことは語れません。だからぜひ」って言われるんだけど。中高のキャリア教育って、すごく、なんて言えばいいのかな。ちょっと表層的というか。それをしたところで、生徒さんたちが本当にやりたいことなんて見つけられるのか、というか。
●将来の夢は何ですか?
小倉:
そもそも谷川さんは、「将来の夢は何ですか?」みたいなことを結構書かされたり、考えるように言われるじゃんって。
QUIM:
小学校1年生ぐらいからある。自己紹介カードみたいな。
小倉:
そう。谷川さんが言うのは、「将来の夢」は世間の正解をなぞる語りになっちゃうって言っている。たとえば、「将来の夢は?」って言ったときに、誰かが「犬と一緒に暮らしたい」って伝えたら、先生に「そういうことじゃない」って言われちゃったんだって。
QUIM:
かわいそう。
小倉:
でもさ、犬と暮らすって、すごく具体的で、すごく素敵なイメージが頭に浮かんでいるわけですよ。それなのに、「そうじゃない。職業を聞いているんだ」みたいになるわけよ。キャリア教育とか、今言われるPBL(Project-Based Learning:課題解決型学習)っていう、問題設定型の教育とか、そういういろんな教育が学校現場では試みられている。それはそれで、意義がないとは言わないんだけれども。けっこう勘のいい生徒さんだと、「先生はこういうことを言ってほしいんでしょ」っていうのを出すしかなくなる。そこに何か、同調圧力みたいなものがあるわけ。
QUIM:
感じ取っちゃう。
小倉:
感じ取っちゃう。無意識になっちゃっている人も全然いるし。だから、「SDGsについて考えましょう」とか、「将来の夢について考えましょう」と言われたときに、先生がなんとなく、ぼんやりと成果みたいなものを設定しちゃっているんだよ。先生も、それは無意識かもしれないけれども。
だから、そうなったときに、「犬と僕は暮らしたいです」って言ったら、「そうじゃない」って言っちゃう。だから、そういうところがあるよねって言っていて。「本当にやりたいこと」という言葉遣いも避けたほうがいい、と言っていて。
QUIM:
つい言っちゃうよね。
小倉:
そう。つい言っちゃうんだけれども。「本当にやりたいこと」として人が語っているものは、みんな似通っちゃう。多様性がなくなると。
QUIM:
みんな、お花屋さんとかパン屋さんとかね。
小倉:
それもそうだし、なんとなく世間的に華々しい、スポットライトを浴びているものなのか、今の自分が正解だと思っているものなのか、どっちかを選ぶから似通っちゃうんだって言っているんです。そうすると、お花屋さんとか、お医者さんもそうだし。お医者さんもすごい入っちゃうし。結局、生徒さんが生きてきた期間なんてすごく短いから、その中で「本当にやりたいこと」って言われても、ないよ、みたいな。
QUIM:
当然だよね。
●「衝動」と「偏愛」と「好き」と「数寄」
小倉:
この谷川さんが言っている「衝動」というのは、別に道を踏み外せって言っているわけじゃなくて。衝動というのは、いわゆる理由はないんだけど、偏愛に近い。自分が、合理的に「これをやったほうが自分にとって勉強になる」とか「プラスになる」とかいう話じゃなくて。たとえば私だと、けっこうノートをつけたりするのが好き、みたいな具体的なフェチみたいなものがあるじゃん。
QUIM:
なるほど。
小倉:
いわゆる松岡(正剛)さんも言っている「数寄」。
QUIM:
「数寄」と書いて、数を寄せるっていう、数をいろいろ集めてみるっていうね。
小倉:
フェチとも言い換えられるけど、そういったものを突き詰めていくと、思いもよらなかったところに到達する。それがまさに「人生のレールから外れる」ということなんだ、と言っているんです。谷川さんは哲学者なんですよ。なので、本当にねちっこく、その衝動のあり方、この衝動をどうやって行動に移していくか、それをどうやって計画性として、実際の自分の生活や仕事に載せていくか、ということを七章にわたって書いてある。
QUIM:
読むと、でも?
小倉:
すごく納得ですね。すごく面白いですよ。衝動っていうと、なんとなく、まったく無計画に、衝動的に何かをしてしまった、みたいな、ちょっとネガティブなイメージがあるじゃないですか。でも、そうじゃなくて、「衝動にとって計画性とは何か」と考える。要は、決められたキャリアデザインに行かないために、衝動をうまく使って、自分の中に湧き上がる「何かやりたい」みたいなことを、どうやって仕事にしていくか、みたいなことが書いてあるんですよね。
●「衝動」で生きてきた小倉とQUIM
小倉:
ところで、QUIM君ってさ、私も聞いてみたかったんだけど、若い頃から何が好きだったの?
QUIM:
どうなんですかね。若い頃は、子どものときはゲームばっかりやっていましたね。好きなことをずっとやってきたっていう感じはありますね。
小倉:
だから、そこはもしかしたら、さっき言った同調圧力が気にならないみたいな。
QUIM:
いや、まあ、もちろん小中高と、学校にいた頃、大学も含めて、やっぱりどう考えても「俺、ズレてるな」っていう感じはありました。感じてはいましたけど、そこに行くと俺はやっていけないというか、もう疲れちゃうなって思ったから、近づけませんでしたね。
小倉:
なるほど。もしかしたら、そういう人にとっては、私もどっちかというとQUIM君に近いタイプで、もともと自分の衝動に対してけっこう素直。そんなに人と同じようにやらないと怖い、みたいな意識があまりあるタイプじゃなかったから。だから、半年で大学を辞めちゃったりとか、過去問なくて受験しちゃったりとかするんだけど。
QUIM:
それをやりたいから。
小倉:
そう、衝動ですね。
●衝動を押し殺しすことがむしろリスクになる
小倉:
結局、その衝動で、自分がやりたいことに向かっているときが、一番エネルギーが爆発する時だから。それをうまく使って、人生を積み重ねていく。レールじゃないんだよね。レールに乗るんじゃなくて、レールから外れつつも、面白いところに行くということかな。ちょっとうまく説明ができないんだけど。
QUIM:
難しさはあるよね。レールを外すと、やっぱり失敗は多いわけじゃん。どう考えてもさ。俺はそうだけど、基本的に失敗なの。
小倉:
そうね。その話もこれに書いてあって。逆に衝動を押し殺して、みんながやっていることと同じことをやっていること自体がリスクだって。リスクであり、失敗でありって。いろいろ失敗はあるんだけれども、最終的にその衝動に素直に従って、そこから「じゃあ次、何をやろう」「次はこういう興味が湧いてきた」みたいな感じで突き進んでいったほうがリスクはないって言い方をしているんだよね。
QUIM:
考え方としてすごいというか。普通に考えたら、やっぱりレールから外れないほうがいいって思うじゃん。でも、そこから外れるとレールがないから、めちゃめちゃ大変な思いはやっぱりする。小倉さんも多分してきたと思うし。そこもあるよね。同調圧力とは別に、自分が失敗していくことに対する構えというか。
小倉:
でも、好きなことだったら、失敗したことが次の原動力というか、次のヒントになりやすいじゃん。これが、嫌々やっていることとか、親に言われたからやっていたことで失敗しようものなら、「やめときゃよかった」という気持ちにしかならない気がして。
ただ、その衝動を見つける。これは「衝動を見つける」本だから。衝動が見つからない人が、どうやって見つけるかっていう話なんだよね。だからそこが、この本としては、谷川さん、すごくよくチャレンジされているなあと思っていて。谷川さん自身は、だって衝動を見つけている人だと思うんだよね。哲学者なんて、物事を深く突き詰めていくのが好きという衝動が多分あるから、そのまま哲学者になっているわけじゃん。谷川さん自身は、衝動を見つけている人なんだけど、見つからない人への見つけ方の指南書。
QUIM:
それをそんなにたくさん書いているわけだ。
●序章は『チ。――地球の運動について』から始まる
小倉:
でも、その衝動っていうのは何かというのが、序章はね、「なぜ衝動は幽霊に似ているのか」というところから始まって。私も読んだんだけど、魚豊さんの『チ。――地球の運動について』って漫画があるよね。
そこに出てくる主人公が、すごく優秀なんだけど、隠れて地動説を証明していく方向に向かっていく。殺されるかもしれないよね。その彼が突き動かされているのが衝動だという例を挙げながら、この本が始まっていくんだけど。もちろん、この漫画の主人公は命の危険があるんだけれども、すごく豊かな人生を送れているわけじゃない。そういうことを例に挙げつつ、じゃあどうやって衝動を見つけていけばいいんだろう、みたいな話になる。それがね、「細部に目を向けなさい」みたいなことが書いてあって。主語っていうか、レンジが大きすぎると、うまくいかない。

QUIM:
それはたとえば?
小倉:
すごく細かな生活の中で、細かなフェチってあるじゃないか。その細かなところを、まず見つけたほうがいいみたいな。私でいうと、たとえばノートを取ったりするのが好きとか、文章を手書きで書くのが好き、みたいなところからさ。たとえば、病気になったとお絵描きをするようになるとかっていうのって、つながっていくんだよ。だから、普段から手書きで図解をするのが好きとか、そういったものが、思いがけないところで自分の仕事とくっつくみたいなところってあるでしょう。だから、すごく細かな具体例から探すといい、みたいなことが書かれたりするんです。
●「好き」ということの解像度を上げていかなきゃ
QUIM:
でもそれって、さっき小倉さんの「好き」っていう話だけど、「好きなことを仕事にする」みたいな話もあるじゃん。それとも違うのかな。
小倉:
なんかね、「好きなことを仕事にする」ということ自体は、この本では書かれていないんだけど。多分そこも、「好き」ということの解像度を上げていかなきゃダメだという話はしている。衝動を見つけていく方法として。
「好き」というのは、漠然と好きというよりも、すごく具体的に、これが自分としては好き、というものを見つけたほうがいい。だから、なんとなく、たとえば「医療従事者になりたい」というぼんやりしたイメージで将来のやりたいことを考えていると、衝動になりづらい。もっと超具体的に。
QUIM:
解像度を上げるってことだと思うんですね。そういう意味では、さっき「犬と暮らしたい」って言ったほうが、全然解像度が高いわけ。
小倉:
そこから逆算していたら、いろんなことが出てくるかもしれない。あるいは逆算じゃなくて、「犬と暮らしたい」ということを起点に、それでどうやって仕事をしていくかって考えたほうが、もしかしたら面白い発想が生まれるかもしれないし。
QUIM:
話を聞いていて、基本、小倉さんが紹介してくれた本が、「それは俺、やっているかもな」と思って聞いていたんです。『友だち幻想』のほうはちょっとわからないけど、その衝動のほうは、たしかに衝動ってものを使っているんだけど、そんなに細かく自分で考えたことがなかったから、ちょっと読んでみたいなっていう。
小倉:
うんうん。多分、QUIM君は自然とやっていて、今の仕事に行き着いている気がするんだけれども。
QUIM:
そうかもしれないですね。衝動があるのかもしれない。
●最近見たおすすめ「”衝動”映画」:『マーティ・シュプリーム』・『ストリート・キングダム』『1975年のケルン・コンサート』
QUIM:
あと、最近見た映画で、まさに「衝動」の映画がけっこう多くて。
一つ目は『マーティ・シュプリーム』という映画で、これは実際にあったストーリーベースで。アメリカに卓球の選手がいたんだけど、それをティモシー・シャラメという、今ハリウッドの若い役者の中ではトップの、すごい美形の俳優が演じています。ただ、中に出てくる役としては、本当にクソ野郎なんだけど。女性を妊娠させたりとかするんだけど、もう卓球に一途なの。それも衝動で、どんどんどんどん突き進んでいくという。これは、第98回アカデミー賞では、作品賞、監督賞、主演男優賞を含む9部門にノミネートされたんですけど、これもすごく面白かったし。
あと、『ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。』というのは、東京ロッカーズと80年代インディーズシーンの話です。80年代に「インディーズ」という言葉、今はけっこう使うじゃん。それをまさに始めたロックの人たちがいて、その人たちを実話ベースで撮ったもので。そこからインディーズカルチャーができていった、というところの話を描いていて。
最後に、さっき小倉さんが紹介したけど、『1975年のケルン・コンサート』という映画。ドイツに住んでいる女の子で、10代で、ジャズとかが好きで、すごく厳格な歯医者のお家で育っているんだけど。あるときキース・ジャレットを見て、「もうこれは呼ばないと。自分が呼ばないと」と思って、キース・ジャレットを呼ぶコンサートを企画する。そのケルン・コンサートで録音されたCDが、ジャズのレコード史上、最も売れたものになったんだけど。
本当に見ていると、みんな衝動で動いているよね。
●たとえば、大谷翔平だって
小倉:
衝動は、しかも長く続くって言うんだよね。すごく瞬発的な衝動の話をしているんじゃなくて。この本も、たとえば大谷翔平だって、多分ものすごく野球がうまくなりたいという衝動。ただそれだけを持って今に至っているんだと思うんだけど。
そこに至るまでは、日々のメンテナンス、食事をどうするかとか、どのくらい寝るかとか、どういう寝具を使うかとか、トレーニング方法をどうするかとか、どういうマインドセットにするかとか。ありとあらゆることが、その衝動一点に向かって計画されるわけじゃないですか。
それもまさに衝動だ、ということを言っているんだと思うね、この本では。だから、その衝動さえ見つけられれば。自分にとって、どういったことに心や体が突き動くのか、みたいなことが見つかりさえすれば、あとはそれの計画を考えていくだけだ、というところだから。
QUIM:
そうだな。ある意味、自分をもっとよく知ろうとするってことだね。伊藤亜紗さんの『体の居場所をつくる』じゃないけど、自分の中のことを知っていくという、そういうことが大事なのかな。
小倉:
そうだから、『友だち幻想』とはだいぶ切り口が違うんだけれども。世の中、学校の先生が設定してきたとか、言ってきたようなことから外れて、自分として何が心地よくて、何に心を奪われるかということを考えるという意味では、2冊はすごく似ている。5月に読むには、明るいものとヘビーなものという感じもあるけど、両方に確かに通底するものはあるよね。
QUIM:
そういう、なんていうか、本当にやっぱり同調圧力というか、大きなものに飲まれず、もうちょっと自分なりに、ルールなりで考えてみるとか、観察してみるということなのかな。
小倉:
まさに。
QUIM:
はい。
小倉:
ありがとうございました。じゃあ、ちょっとこんなところで。
QUIM:
はいはい。
小倉:
どうもどうも、お疲れ様です。
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投稿者プロフィール

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メディアのプロとして、立ち上げから今日に至るまでMEdit Labの運営を
全面的にサポートしてくれているSaiQuicのエディター。20代から伝説の編集者、故・松岡正剛にその才能を見出され、数々の松岡プロジェクトに参加してきた。大学時代は勅使川原三郎ゼミに所属し、ダンサーやモデルや役者もできちゃうマルチタレント。
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