おしゃべり病理医のMEditラジオ COLUMN
今回のMEditラジオは4回目の配信です。
「人生いりょいりょ」のコーナーがスタートします!
「人生いりょいりょ」は医療従事者の方をゲストにお招きして、「どうして医療従事者を志したのか?」「普段の1日のスケジュールは?」などなど、「人生の”いりょいりょ”」を根掘り葉掘り深掘りインタビューするコーナーです。
第一回のゲストは番組MCであり、MEditLab代表のおしゃべり病理医・小倉加奈子。
おしゃべりの内容は、
・おしゃべりのその美声は「菅野美穂」?
・病理医は細胞の「顔」を見る
・外科医不足と直美の激増
・AI時代の医師の役割
などなど、詳しい内容は下記の「チャプター」に記載しています。
それでは、ごゆるりとお楽しみください。
▼その他配信先
・Apple Podcasts:https://x.gd/LUfXT
・Amazon Music:https://x.gd/IArL6
・YouTube:https://youtu.be/LugicabIrXs
▼今回のゲスト
小倉 加奈子(おぐら・かなこ):順天堂大学医学部人体病理病態学教授、同附属練馬病院病理診断科科長、臨床研修センター副センター長。2002年順天堂大学医学部卒業。2006年同大学院博士課程修了。医学博士、病理専門医、臨床検査専門医。大学病院の日々の診療において、病理診断を担当しながら、研修医・医学生の指導にあたる。同時に、故・松岡正剛氏のイシス編集学校で編集コーチ(析匠)を務め、編集工学のメソッドを医学でも活用すべく、順天堂大学STEAM 教育研究会「MEditLab」を主宰し、医学を身近に感じてもらう様々なプロジェクトを企画。著書に『おしゃべりながんの図鑑』『おしゃべり病理医のカラダと病気の図鑑』(以上、CCCメディアハウス)、『細胞を間近で見たらすごかった——奇跡のようなからだの仕組み』(ちくま新書)。趣味はお絵描きと読書。モットーは、ちゃっかり・ついで・おせっかい。
▼チャプター
・ラジオ初収録を終えて
・人生いりょいりょとは
・おしゃべりのその美声は「菅野美穂」?
・イシス編集学校の魅力
・息子は野球と麻雀オタク
・病理医は細胞の「顔」を見る
・見立てはダイアグノーシス(診断)
・病理医NPOの活動
・バナナの病理診断
・病理医は全医師数のたった1%?
・NHK「又吉直樹のヘウレーカ!」出演
・なぜ病理医は増えないか
・外科医不足と直美の激増
・AI時代の医師の役割
・幻の文庫化と出版新企画
▼全文公開
●おしゃべりのその美声は「菅野美穂」?
QUIM:
はい。「人生いりょいりょ」第1回ということで。録ってみてどうでしたか。
小倉:
はい。いつもの通りでした。マイク越しっていう新鮮さはあるけど、いつもQUIMくんとランチを食べてるときのトークと同じでした(笑)。
QUIM:
疲れてないですか。
小倉:
大丈夫です。
QUIM:
僕は若干疲れてます(笑)。
部屋がね。
小倉:
暑い、ちょっと。
QUIM:
そうなんですよね。順天堂大学のお部屋をお借りしてやってるんですけど、ちょっと暑くて。
小倉:
ね、ちょっと暑いね。なぜか空調がね。密室で、音を遮断するというか、遮音性はいいんだけど、音の吸収とかも良さそうなんだよね。
QUIM:
そうですね。
さて「人生いりょいりょ」は、医療に関わる人がどういうふうに生きてきたか、仕事だけじゃなくて、どうやってお医者さんになったのかとか、お医者さんになってからのこととか、そういうことを聞いていくコーナーなんですよね。
小倉:
確かに。
QUIM:
さっき第1回でも少し話しましたけど、僕と小倉さんは編集学校で出会ったんですよね。
それで以前、小倉さんが本を出したときに、僕が編集学校の「エディスト」というWebメディアで、小倉さんの本の紹介を書いたんですよね。
小倉:
ありがとうございます。
QUIM:
そのときに、小倉さんのプロフィールを、僕が知っている範囲でかなりいろいろ書いたんです。今日、あらためてインタビューするので読み返してみたんですけど、けっこうちゃんと書いてあるんですよ(笑)。
小倉:
自画自賛みたいだけど、本当にありがたいと思いました(笑)。結構長文なんだよね。
QUIM:
長文なんだけど、あれを読めば小倉さんのことがほとんどわかる、というぐらい書かれてる。
小倉さんの評伝みたいな感じになってる。
小倉:
本当にありがたいです。
QUIM:
その紹介文の冒頭には「声が枯れるほど毎日しゃべりたおしている病理医がいる」と書いた。そして「その『美声は菅野美穂』との呼び声も高い」と(笑)。
小倉:
(笑)。
QUIM:
これは実際に言われたことがあったんですか。
小倉:
あります。大学生のとき、医学部の学生って塾講師のバイトをしがちなんですよ。
私も例にもれず、中野駅からほど近い補習塾で塾講師をやっていて。小学生と中学生に、国語、算数、理科、社会、英語みたいに、わりと何でも教えていました。
QUIM:
へえ。
小倉:
受験塾じゃなくて補習塾だから、たとえば野球ばっかりやってきて、中3になっちゃって、ローマ字もちょっと怪しいとか、「I am like……」という感じで文法もわからない、みたいな中学生たちをみてたんです。
QUIM:
なるほど。
小倉:
基本的には個別塾だから一対一なんだけど、夏期講習みたいなときに一対十人くらいでやったことがあって。
私がぱっとしゃべり出したら、子どもたちが「先生、菅野美穂だ!」とか言い出して、「本当だ!」ってワーッとなって、授業が中断される、みたいなことがあったんです。
私がしゃべるたびに「菅野美穂、菅野美穂」ってなるから、授業が進まない(笑)。「なんで菅野美穂?」って思ったけど、それが最初で、小学生から言われました。
QUIM:
すごいよね。でもうれしいよね、菅野美穂って。
小倉:
そうだね。声だけだけど(笑)。
QUIM:
そのとき菅野美穂って、何かドラマとかやってたのかな。
小倉:
やってたのかな。まだ全然20代とかだったんじゃないかな。私たちとたぶん同世代ぐらいだよね。
QUIM:
たしかに。
小倉:
鼻にかかった、ちょっと鼻声っぽい感じなんですよ。菅野美穂も、私も。私、副鼻腔炎持ちなんで、常時鼻声なんです(笑)。
QUIM:
これ、菅野美穂の話で5分ぐらいしゃべってますね(笑)。
小倉:
やばい、やばい(笑)。
●息子は野球と麻雀オタク
QUIM:
でも、小倉さんの編集学校の話も面白いんですよね。小倉さんだけじゃなくて、ご家族もみんな編集学校に入ってる。
小倉:
そうなんです。最初はちょっと怪しい学校だと思っちゃったんですよ。いろいろ勧誘とか受けるかな、とか、そういう警戒心があって。
QUIM:
どういうところを見て、そう思ったんですか。
小倉:
私は医療しか知らないから、いわゆるこういう学校って何なんだろう、って。ビジネススクールでもないし、カルチャースクールみたいなものかな、と勝手に思ったりして。「世間知らずだな、自分は」ってすごく思ってたから、何か間違って足を踏み込んで、変な学校だったらどうしようと思ったんです。それで、会社員の夫を誘って、一応夫婦で一緒に入ったんですよ。
QUIM:
ちょっと警戒しながら(笑)。
小倉:
そうそう。「大丈夫か?」と思いながら入ったら、結構どハマりしちゃって。その後、今は亡くなった父も入ったんですよ。
QUIM:
お父さんも入ったんだ。
小倉:
そう。ちゃんと基本コース[守]をしっかり了えて。でも、すごくつらかったみたい。特に応用コース[破]の「クロニクル編集術」で自分史を振り返るのが大変じゃないですか。父も70近かったし、小学校時代にかなり苦労してたから。貧乏で苦労したこととか、思い出したくもないことを思い出したりして、つらかったらしいんだけど、それでもそれなりにハマってましたね。
QUIM:
へえ。
小倉:
その後、中1になった息子があまりにも国語ができないから、「ちょっと編集学校に入れてみようか」って言って入れてみたんです。でも、国語は全然変わらなかった(笑)。
QUIM:
あんまりそういう効果はなかった(笑)。
小倉:
そう。その後に下の娘が中3のときに一回入ったのかな。子どもたちは二人とも[守]しかやってないんだけど、一応ちゃんと38番のお稽古を終えて、卒門してます。
QUIM:
家族だけじゃなくて、病院の仲間たちにも勧めたりしてるんだよね。
小倉:
別に、すごい押し売りおばさんみたいにはなってないんだけど(笑)、本当に相性が良さそうだなっていう人には、ちょっと声をかけたりはしますね。でも、そんなにハマる人はいないよね。やっぱり職場は医療関係、同業者で病理だったりするから、相当みんな多忙だし、本当にハマらないと続けていくのは難しいかなって。
QUIM:
そうだよね。息子さんからは「編集オタク」って言われてたって書いてあるけど、ハマる人とハマらない人って、何が違うのかな。
小倉:
どうなんだろう。でも、「それを言うあなたもね、っていうぐらい、息子もオタクなところがあるから。野球と麻雀オタク。
QUIM:
麻雀も?
小倉:
そう。本当にやだよね(笑)。今、Mリーグが流行ってて、本当にMリーグのことは詳しいし、麻雀も詳しいし、麻雀自体もすごい研究してると思うし。
QUIM:
Mリーグって麻雀のこと?
小倉:
そう。野球もね。巨人ファンではあるんだけど、たぶんプロ野球、高校野球、実業団野球、メジャーリーグまで全部わかってる。
QUIM:
データが好きなんだね。
小倉:
データが好きかもしれない。そこはちょっと私と違うんだけど、ある選手がどこの高校を卒業して、何年にドラフト何位で入団して、みたいなところまでデータが頭に入っていくんですよ。
QUIM:
その力があれば、国語もできそうだよね。
小倉:
そうなのよ(笑)。
QUIM:
編集学校にハマる人も、やっぱりオタク気質があるのかな。
小倉:
あるかもしれないね。でもドクターも、ある種オタクだよね。
●病理医は細胞の「顔」を見る
QUIM:
そういえば記事には、小倉さんが病理診断してるときに、「細胞に話しかけてる」って書いたんだけど。
小倉:
やばい人だよね(笑)。でも、なんか一言とか出ちゃうんですよ。たまに。
QUIM:
「細胞の“顔つき”で見る」、みたいな話ですよね。
小倉:
そう。以前は、「これ悪そう」とか、ぱっと見た瞬間に思ったり、「お花が舞ってるみたいできれい」とか、そういう感情は病理診断には関係ないと思ってたんです。ただ、自分にそういう癖があるだけだと思ってた。でも、「見立て」の話を松岡さんに聞いたときに、そのことが重要なんだと思ったんです。
QUIM:
なるほど。
小倉:
もちろん、勉強すれば病理診断はできるようになるし、数をこなすことが大事。でも、すごく真面目で、すごく知識が深い人が、病理診断をシャープにできるかっていったら、そうでもないんですよ。
センスがいい人っていうのがやっぱり先輩にいて、勤勉であることとか、いろんな医学知識を深く知っていることとは、必ずしも一致しない。そこは「見立て」なんだなと思ったんです。
QUIM:
そのセンスが「見立て」の力なんだ。
小倉:
私の診断をチェックしてくださっていた先輩も、「この細胞の核、ジャガイモみたいじゃない?」とか、いろんな見立てを言う人だったんです。細胞に話しかけてたかどうかはわからないけど、すごくノンバーバルというか、非言語的で、絵画的な見方をしてたんだと思う。そういうふうに診断のスキルを積み重ねていったんじゃないかな。
QUIM:
でもそれって、病理医になるときに教わるわけじゃないんですよね。
小倉:
教わらないですね。たぶんみんな、それぞれいろんなプロセスで最終診断にたどり着いてるんだろうけど、誰もそのプロセスは言語化できていない。学会とかで、そういったことが話し合われる機会もほとんどないんです。
最終的な診断が合ってるかどうか、こっちじゃないか、あっちじゃないか、みたいな議論はされるけれど、「どういうプロセスで診断しているか」はそんなに分析されていない気がする。でも、それってたぶん「暗黙知」なんですよね。
QUIM:
病理に「見立て」を持ち込んでるのは結構画期的ですよね。
小倉:
まったく病理を知らない松岡さんが、「見立てはダイアグノーシス(diagnosis、「診断」を意味する)です」って言って、私の仕事のこともすごい理解してる感じで話をしてくださるのが、本当に驚きだった。すごい人だなと思いました。
QUIM:
小倉さん、今はMEditLabもやってるけど、それ以前にはNPO法人「病理診断の総合力を向上させる会」も立ち上げたんですよね。
小倉:
いや、立ち上げたわけじゃなくて、参加したんです。
QUIM:
あ、参加なんですね。
小倉:
そう。設立は2014年。編集学校に入ったのが2011年だから、その後ですね。
QUIM:
その頃から、自分の病理医としての方向性も少し変わってきた感じなんですか。
小倉:
そうかもしれない。私は2002年に卒業して、編集学校に入ったのが2011年だから、医師10年目くらいで。
ちょうど、これからどうやって病理医として生きていくか、キャリアをどう積んでいくかが、ちょっとわからない時期だったかなと思うんです。
QUIM:
当時はキャリアのモデルがあまり見えなかった。
小倉:
そう。普通はね、乳腺・乳がんを専門にするとか、大腸がんを専門にするとか、臓器を決めて、それに対して発がん機構を研究するとか、診断のスペシャリストになるとか、どんどん専門性が先鋭化していくわけです。
でも私は、そっちにあんまり興味がなくて。乳がんばっかりも嫌だな、とか、子宮がんとか卵巣がんばっかりやるのもな、みたいに思ってた。あんまり病理の先輩たちと同じようになる、というのが自分の中でピンときていなかったんです。
QUIM:
自分が進みたいモデルがあまりなかった。じゃあ自分で作っていくしかないと。
小倉:
そうなんです。これ以上専門的になりすぎて、視野が狭くなるというか、世界が狭くなっていくのが嫌だった。人生長いし、医学以外のことにも興味があるから、これ以上狭い世界に行きたくないなって思ってたんです。
でも、このままふわっと病理をやり続けるのもな、と思っているところで、NPO法人「病理診断の総合力を向上させる会」に出会った。そのNPOがやっていたのは、病理医の認知度を広げる活動を積極的にやろう、ということだったので、設立の話を聞いたときに、「私、やれる」と思って、すぐ手を挙げたんです。
QUIM:
へえ。2014年ですよね。それで、すぐ理事とかプロジェクトリーダーになったんですか。
小倉:
そう。やる人がほかにいなかったんです(笑)。
その当時、理事になった人たちは本当に偉い人たちで、学会長とか、参議院議員とか衆議院議員とか、そういう方々だった。
でも、その人たちが実際に汗水たらして活動するわけではない。
そこに実働部隊として「小倉、やります」って入ったから、「じゃあもうプロジェクトリーダーやって」って言われて。私一人しかいないから、リーダーって言ってもそういうことなんだけど(笑)。
それこそ、その後に、バナナの病理診断とか、葉物野菜を取り入れた病理診断セミナーみたいなことを考えて、営業活動も自分でやって、学校に電話しまくって「やらせてください」みたいなことを始めて。
たぶんその1年の頑張りが評価されて、すぐ理事になったって感じです。他にやってる人がいなかった、ただそれだけです。
●病理医は全医師数のたった1%?
QUIM:
病理って本当に少ないんだよね。僕がこの記事を書いたとき、2018年だったんだけど、そのとき「0.75%」だったようです。
小倉:
変わらないと思う。
QUIM:
ちょっと増えたのかな。今は「1%くらい」と聞いたけど。
小倉:
そんなに変わってない。今、2600人とか2700人ぐらいはいるんだけど、それって70代後半とか80代とかの総数を含めての専門医の数なんですよ。実働は2000人いないと思う。
QUIM:
「平均年齢54.6歳」って、すごいよね。
小倉:
超高齢化だよね。ちょっと笑い話じゃないんだけど、私、病理診断を専門にしている検査センターに外勤で行くんですよ。それである日、封書が来ていて、「今後の契約について」って書いてあったの。それを開けたら、「今後この検査センターは病理医との契約について、”満80歳未満”までとします」って書いてあって。
でも「満80歳未満」って、私には関係なさすぎる年齢なんだけど(笑)。70代とかでお仕事されている先生方がそれなりにいるから、その封書が出されてるんだと思う。
QUIM:
実際、その年齢まで働けそうなものなんですかね。
小倉:
目が見えて、認知機能がしっかりしていれば、できると思う。最近はいろんな検査法が出てきてるから、おじいちゃんおばあちゃんになったときにそれを今まで通りキャッチアップするのは大変だと思うけど、「これはがんじゃないか」くらいなら、経験値を積んだ先生方は全然わかると思う。
QUIM:
そんな中で、小倉さんは当時、テレビにも出たんだよね。『又吉直樹のヘウレーカ!』(NHK)に。
小倉:
そうそう。あれも病理学会に一回お話があったのかな。NHKから、病理検査室を取材させてほしいって。たぶん病理学会のトップの先生方に相談があって、私のことを思い出してくださって。「あの人だったら、いろいろ高校生にセミナーとかやってるからちょうどいい」みたいになって、紹介してもらったんだと思います。
QUIM:
“なかのぐらコンビ”でしたよね。仲野徹さんと小倉加奈子さん。
小倉:
そうなんですよ。ただ、仲野先生は病理医ではないんですよね。病理学講座の教授でいらっしゃるんだけど、生粋の研究者なんです。病理診断は、たぶん普段はされてないと思う。
QUIM:
そういうふうにテレビに出たり、『フラジャイル 病理医岸京一郎の所見』(講談社)みたいな漫画があったりしても、やっぱりそんなに増えてる感じはしないんだよね。
小倉:
そう。いまだに本当に増えてない。やっぱり患者さんを直接出会う機会がないからかな。若いドクターからすると、やりがいのあるイメージがつきにくいんじゃないかなって思うんです。
QUIM:
たしかに、医者っていうと、やっぱり外科医みたいに患者さんに直接触れて、患者さんからお礼を言われる、みたいなイメージがある。
小倉:
そう。それとはちょっと違う、地味な仕事でもあるから、なかなかその良さとか面白さが伝わりづらいんだと思う。
●AI時代の医師の役割 なぜ外科医が減って、直美が激増しているのか
QUIM:
この「人生いりょいりょ」では、外科とか以外にも、どういうお医者さんがいるのかっていうのも、もうちょっと伝えていければと思いますけどね。病理が一番少ないんですか。
小倉:
そんなことないですね。もっと少ない専門医もいます。たとえば臨床検査専門医。実は私、臨床検査専門医という資格も持ってるんだけど、こっちはもっと少ないのかな。
ただ、それが急に日本の医療に大きな問題を引き起こすかというと、病理不足のほうが、もしかしたら直接いろんな影響があるかもしれないですね。あと、最近問題になってるのは、外科医が減ってること。
QUIM:
外科って花形みたいな感じするけど。
小倉:
でもやっぱり、きついっていうイメージがあるんだと思う。それに、いわゆる「直美」になっちゃう子たちが毎年200人ぐらいいるのかな。毎年、国家試験に合格する人が9000人ぐらいいて、2年間の研修をやって、そのうちの200人が直美に行くって、すごい損失なんですよね。
QUIM:
すごいよね。
小倉:
やっぱりちゃんとした教育を積まないと、美容外科だって危ないし、手技的にも危ない。合併症が起こったときの対応とかもできないから、やっぱりちゃんと教育されていく必要があるんだけど。
そこに9000人のうち200人も取られるって大きなことだし、最近はやっぱり「外科医はきつい」っていうイメージが強いんでしょうね。
QUIM:
そんなに直美になるのって、やっぱり魅力はお金なんですか。
小倉:
お金はあると思う。簡単に、とは言えないけど、高収入なんだと思う。でも、私は思うんだけど、AIが入ってくる時代だからこそ、むしろ外科医は残るんじゃないかと思ってるんです。
特に病理は、「AIで最初になくなるのが病理だよ」みたいなことを、他の診療科の先生がネガティブキャンペーンみたいに言うんですよ。でも、それを言うなら、どの診療科だってそうだと思う。
内科だって、いろんな検査データを入れたら「この疾患かもしれない」って全部出てくるかもしれないし、がん治療だって、最適なお薬はこれですって出てきちゃう時代になるかもしれない。そう考えたら、どの診療科もAIで仕事がなくなるって話になっちゃう。でも、手を動かす仕事は残ると思うんです。
QUIM:
なるほど。
小倉:
私たちも、病理診断って顕微鏡を見てるだけじゃなくて、病理解剖をやったり、臓器を切ったり、結構手作業も多いわけです。
だから、病院の仕事が全部AIに奪われるなんてありえない。
それをいろいろ考えていくと、外科医は長い目で見たときに強いんじゃないかと思う。私、今、息子には「これからの時代は外科医だよ」って思ってるし(笑)。
QUIM:
なるほどね。
小倉:
だって、人気のあるところに行ってもしょうがないと私はずっと思っていて。若いときから、病理もみんなに「病理って誰も行かないじゃん」みたいに言われてた。
でも、言われれば言われるほど、「これ、稀少価値じゃない?」って思ったんです。順天堂の卒業生でも、私の一つ上から12年間、病理に進んだ人がいなかったんですよ。
QUIM:
すごいね。
小倉:
だから、ある程度、自分がキャリアを積んでいく上では戦略的じゃなきゃいけないと思う。自分の価値をどう高めていくか、どう保てるかっていうことには、戦略的な考え方も必要だと思っていて。そのときに、今だったら外科医に行く人が少ないんだったら、外科医になるんだよ、って思う。
QUIM:
しかも今、働き方改革がありますもんね。
小倉:
そう。外科医も長く働けなくなってるんですよ。病院側も、一定以上働かせたら罰則があるような時代だから。そうなってくると、結構効率よく働けるんじゃないかと思うわけ。何を見て「きつい」と思ってるのかなって。私、今だったら外科を選ぶね。病理じゃなくて。
QUIM:
それ言っちゃうんだ(笑)。あなたは病理医を増やす活動をしているのでは(笑)。
小倉:
困っちゃうよね(笑)。でも今だったら、そう思うかな。
QUIM:
正直者ですね(笑)。さて、小倉さんの本の話も少ししましょう。『おしゃべりながんの図鑑』と『おしゃべり病理医のカラダと病気の図鑑』(ともにCCCメディアハウス)、これはまだ買えるんですか。
小倉:
はい、おかげさまで。あと、今度ちょっと、まだどこの出版社とは言えませんが、新しい本を書いてくださいって言われていて。それは、今までみたいに病気の話とか細胞の話とか、病理医としての立場で書く本ではなくて、MEditLabも始めて、ここ5年ぐらい教育的なこともやってるから、医学部についてのガイダンスみたいな本を書いてください、という話なんです。それはちょっと楽しみです。
QUIM:
それは楽しみですね。でも、前の2冊の文庫化の話もありましたよね。
小倉:
そう、それね。実は文庫化の話があったんですけど、たぶんなくなりそうなんです。
QUIM:
そうか、文庫化なくなっちゃったのか。残念。
小倉:
なぜかというと、図版がすごく多くて、文庫にするのが極めて難しい。紙面の編集が難しすぎて、コストがかかりすぎるって話になったんです。
QUIM:
なるほどね。どの本もそうですけど、イラスト多くて読みやすい一歩で、小倉さんの本って、けっこう専門的なところまで入っていくじゃないですか。
小倉:
そう。だから、一般の読者にはちょっと難しいな、理解しづらいなっていうところもあると思う。
QUIM:
でも、それでも読み進めることはできるし、後からもうちょっと深めたいなってときにも読める。だから賞味期限が長い。それはすごくいいなと思ったし、『細胞を間近で見たらすごかった』(ちくま新書)の日経新聞の書評でも、そういうことが書かれてましたよね。
小倉:
竹内薫さんが書いてくださって。本当にありがたいです。
QUIM:
文庫化の話、復活してくれるといいですね。これを聞いてる出版社の方がいたら、ぜひお願いしたいです(笑)。
小倉:
お願いします(笑)。
QUIM:
じゃあ今日はこのへんで。
小倉:
はい。ありがとうございました。
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投稿者プロフィール

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メディアのプロとして、立ち上げから今日に至るまでMEdit Labの運営を
全面的にサポートしてくれているSaiQuicのエディター。20代から伝説の編集者、故・松岡正剛にその才能を見出され、数々の松岡プロジェクトに参加してきた。大学時代は勅使川原三郎ゼミに所属し、ダンサーやモデルや役者もできちゃうマルチタレント。
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