診療すごろく COLUMN
中高生のころに病院に行くと、お会計の時が一番緊張しました。呼ばれるまで料金の予想ができず、もし手持ちのお金で足りなかったらどうしようとドキドキしていたのです。
デパートには値札が、レストランや美容院ではメニュー表があって、お財布と相談しながらお店や品物、メニューを選ぶことができます。でも多くの病院には料金表はありませんし、みなさんも値段で病院を選ぶということはあまりないと思います。なぜ病院には値段表記がないのでしょう。
◆日本全国一律料金!「国民皆保険制度」
ここには「国民皆保険」という日本の制度が関係してきます。病院にどうやって受診し、どの程度お金を払うかの仕組みは世界各国で異なりますが、日本では国民全員が公的医療保険に加入し、病気やケガの治療は保険診療で行うことが基本とされています。保険証さえもっていれば、患者さん自身が日本全国好きな病院を選ぶことができ、お支払いは一部ですみます。
この保険診療の料金は「診療報酬」といって厚生労働省がきめる全国一律の価格なのです。つまり、「私は腕がいいから手術代を他の病院の3倍にするぞ!」といったことや、「指名料として1億円いただきます!」みたいなことは保険診療では許されません。北海道から沖縄まで、病院や医師によらず同じ金額です。そのため保険診療を行う病院では特に料金がかかれていないのですね。
◆「円」じゃなくて、「点」?
では、実際どのように料金の計算を行うのでしょう?検査や治療にはひとつひとつ値段が決まっています。ただし、〇〇円ではなく、ひとつ●●点という単位です。その一覧表である診療報酬点数表は300ページを超え、細かくルールが決められています。例えば私が勤める病理診断科に関する項目では、1カ所の組織標本(プレパラート)を作ると860点、組織診断すると450点のように定められています。
歴史を振り返ってみると、公的医療保険がはじまった昭和初期は、1年間の医療費の合計が保険加入者1人につき約7円と決められていました。どんな治療や検査が行われたかには関係なく、日本全国の全病院の1年間の収入の合計があらかじめ決められていたのです。その総額を各病院にいくらずつ配分するかを決めるために診療報酬点数表が導入されました。1年間にどのくらい検査や治療が行われたかを点数で表し、収入総額を割ることで1点がいくらか(一点単価)が決まりました。日本全国で行われる医療行為が増えれば増えるほど、どんどん単価が下がり、結果的に病院が苦しくなってしまいました。
その後、単価を固定することで、行った検査や治療の分をしっかり病院が受け取れるように仕組みがかわっていきます。この時にも点数換算が採用されたのは、物価や賃金といった社会の経済情勢を一点単価の上げ下げで反映できるようにと考えられたからです。しかしながら、1958年以降は1点=10円で固定され、診療報酬の調整は経済情勢も含めて点数の上げ下げにより行われています。そのため、今は合計点数×10円がお会計にまわっています。
診療報酬=検査や治療の点数×1点単価
《当初の予定》 新薬などの医療技術の進歩で調整 経済状況の変化で調整↓ ↓《現在》 経済状況も含め総合的に調整 「1点=10円」に固定
今は領収書とともに点数の内訳がかかれた明細書を発行している病院もあります。受け取った時にはぜひ注目してみてください!
■参考■
・なるほど診療報酬!国民のみなさまへ 「日本医師会ホームページ」
投稿者プロフィール
- 全方位に目があるんじゃないかという細やかな気配りのできる逸材。寛大で誠実、緻密な仕事ができるのに人に優しい。病理医とSTEAM教育研究者の二足の草鞋を履くお母さん。愛くるしいパンダに似ているのであだ名は「しんしん」。
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