■企画書ってなんですか
みなさん、「企画書」って書いたことあります? 企画書とは、あるプロジェクトやアイデアを実現させるときの計画書。業種にもよるけれど、働きはじめると「それ、いいアイデアだね!企画書にまとめよう」なんて、日常的に企画書を書くことになります。
MEdit Lab「みんなで医学をゲームする」というワークショップでは、医学にまつわるゲームをつくっています。が、参加者さんにまず作ってもらったのは企画書。ゲームをつくるのに、どうして企画書を書かなければいけないんでしょう?
▲第1回ワークショップにて、参加者に手渡されたのが白紙のキカク書。これを開くと内側には……(詳細は、こちらの記事の末尾にあるPDFファイルをご覧ください)
じつは、実際のゲームの開発現場でもゲームづくりの最初は、企画書づくりなのです。ワークショップで参加者の企画書を添削してくださっている山本貴光先生が、共著として出版された『ゲームの教科書』(ちくまプリマー新書)にはこんなふうに説明してあります。
ゲームをそれなりの規模でつくろうと思ったら、相当のお金や人員が必要だ。そこで、ほんとうにその企画に投資して大丈夫かどうかを判断する材料として企画書を作る。いわば、お金を動かす説得材料のようなものだ。(p.60)
なるほど。「こんなゲームをつくりたいんですけど、いいですか? いっしょにやりません?」と支援を引きだすために、企画書は必要らしい。それに、スタッフと協力するためにも企画書は欠かせないみたい。
とすると、みなさんもこれまでの人生のなかで、企画書的なものをつくったり、口頭で話したことがあるかもしれない。たとえば、「文化祭でこんな模擬店やってみたい!」とクラスのみんなを巻き込むときとか、留学に行きたくて親にお金を出してもらおうとするときとか……。
どれだけ画期的なアイデアでも、そのアイデアがあなたのアタマのなかにあるだけでは他の人には伝わらない。新しいプロジェクトを誰かと進めたいときには、プレゼンが必須。生まれたてのアイデアを、書き言葉や話し言葉、あるいは図や写真などを使って「表現」する必要があるわけなんです。
▲『ゲームの教科書』には、プロのゲームクリエイターの赤裸々な日常が。こちらの記事で内容をチラ見せしています。
■人に伝わる表現のコツとは
じゃあ、どうやったら、人に伝わるような「表現」ができるのでしょう? MEdit Labワークショップ第3回では、企画書の書き方についてもレクチャーがありました。講師は、ゲーム作家で東工大教授の山本貴光先生。参加者の書いた企画書を添削していると、25年前のことが思い出されたといいます。
それは、新人ゲーム作家として、何百も企画書を書いていた時代。どれだけ書いても伝わらない。それを痛感する日々。そんな実感とともに、山本先生は企画書を書く心構えを教えてくれました。
いわく、「企画書に完成はありません。いつでも途中バージョンです」。
……途中? どういうことでしょう。
「企画書もゲームも本も同じです。きっとすべてのクリエイターは、リリースしたゲームや出版した書籍も、Version0.7くらいだと思ってるはずです」。
作品に完成はない。これは、ライターとして仕事をする文系ウメ子は、首がもげるほど頷いたわけです。企画書も文章もゲームづくりだって、やろうと思えばどこまででも凝れます。レオナルド・ダ・ヴィンチは、晩年まで『モナリザ』に手を入れ続けたという説もあるほど。制作には、ここに到達したら完了!といえるような明確なゴールはありません。だからこそ「締切」という時間的な制限で、無限に続くクリエイションをいったん区切るわけです。
■クリエイションを生みだす「ダメ元主義」
完成がない。つまり、正解があるわけじゃない。だから、クリエイションは楽しい。けれど、難しくもあるわけです。企画書を書いていても、ふだんの文章を書いていても、なかなかスラスラと書けるものではありません。執筆には「いい表現が思いつかない!」と、紙をぐしゃぐしゃに丸めて放り投げたくなることがつきものです。
では、そうやって手が止まったとき、どうすればいいのでしょう。天啓が下りてくるのを待つ? いっそすべて諦めて、作品全部をボツにしちゃう?
山本先生はそんなときの対処法も教えてくれました。それは「ダメなアイデアでも、とりあえず書いておく」です。
たとえば、文章を書いていてとくに悩むのはタイトル。参加者のみなさんも、「ゲームタイトル」に苦労した方も多いはず。
山本先生は言います。
「いい名前が浮かびませんでした、と思うこともありますが、とりあえずダメなタイトルでも書いておきましょう。そうすると、あとから『これよりはマシ』というアイデアが出てきます」
めっちゃ納得。みんな、100点満点のアイデアが欲しい。でも待ったところで、そんなアイデアは降臨するとは限らないわけです。だったら、いったん20点でも30点でも、しょぼしょぼのアイデアを書き留めておく。そうすれば、42点のアイデアが出てきたときに、「ちょっとマシ」になる。この「ちょっとマシ」を何度も重ねていけば、きっと80点くらいにはなりそうだ。
山本先生いわく、「〈完璧主義〉をやめて、〈ダメ元主義〉になろう」。
これがきっとクリエイションのコツ。最初から完璧なんて無理だし、完成なんてない。ダメで元々。どんなに偉大な傑作も、生まれたときはぴよぴよだったのです。
投稿者プロフィール
- 聞き上手、見立て上手、そして何より書き上手。艶があるのにキレがある文体編集力と対話力で、多くのプロジェクトで人気なライター。おしゃべり病理医に負けない“おせっかい”気質で、MEdit記者兼編集コーチに就任。あんこやりんご、窯焼きピザがあれば頑張れる。家族は、猫のふみさんとふたりの外科医。