診療すごろく COLUMN
この週末、今年度のMEditLabリアルワークが最終回を迎えました。今年のワークショップでは、参加者さんが医学に関するゲームを考案しました。最終回ではキカクショを提出してくれた方に修了証をお渡しするとともに、しんしん賞・山本貴光賞・おしゃべり病理医賞の3つの特別賞の表彰を行いました。
●オセロに合う医学テーマ?
おしゃべり病理医賞に輝いたのが、ピーチさんの『バトル!in the 手術室』です。このゲームはみなさんも良く知るオセロと医学を掛け合わせたゲームです。第3回リアルワークでは山本貴光先生より「ゲームの特徴を活かすことが大切」とのお話がありましたが、オセロの特徴ってなんでしょう?
・白と黒に分かれて、陣地を取り合う
・最終的に陣地が広い方か勝ち
・周りの状況により、白から黒、黒から白へ陣地が変わる
オセロをもとにゲームをつくるには、白黒がはっきり分かれて、かつ状況により変わる、ということが必要そうです。しかし、医療の現場では白黒ハッキリが意外と難しいんです。例えば良性と悪性、治療中と完治…どれも対極の言葉ですが、数値などでピシッと線引きすることはできません。ドクター座談会でも出たように、患者さんの背景によるところも大きいからです。
そんな中、ピーチさんがオセロと掛け合わせた医学テーマは清潔・不潔でした!医療現場において、もっとも白黒ハッキリするテーマを持ってきてくださったピーチさん。これには私たちMEditLabメンバーも目からウロコが落ちる思いでした。
●医療現場での清潔
「清潔」という言葉は日常でもよく使いますね。洗濯したてのタオル、開けたばかりのティッシュは清潔だと思う方が多いかと思います。しかし、手術室ではどれも「不潔」とされてしまいます。
医療現場では滅菌されているものを清潔として扱い、それ以外は全部不潔と考えます。ここで登場する滅菌とは、細菌などすべての微生物を完全に除去すること、をいいます。検査や治療が感染の原因にならないように、採血の針・点滴のバック・点滴のチューブ・メス・手術用ガーゼなど、体の中に入る可能性があるものは滅菌するのが基本です。高温高圧の蒸気の中にいれる、放射線にあてる、など素材により方法はさまざまですが、いずれも微生物の生存する確率を100万分の1にすることが目標です。
●清潔を守る!
滅菌された清潔なものを扱う私たち医療者には大事なミッションがあります。それは不潔にしないことです。医療現場では少しでも菌がいれば不潔になってしまいます。メスなどの滅菌器具は、滅菌された布の上におき、人が持つ時にも手を洗浄した上で、滅菌手袋をつけてからさわらないといけません。床に落としてしまった時には、その器具は「不潔」とされ、その手術では使うことができなくなります。
患者さんを守るために清潔・不潔はとても厳密です。例えば滅菌手袋の外側は清潔ですが、内側は人の手が触れるため不潔とされます。どれだけ手を洗ったとしても、手袋を着ける時にも清潔な外側を触ってはいけません。外側を触らずに手袋を着けるというのは意外と難しく、医学生の授業では清潔手袋の着け方の実習があり、前のコラムでお話したStudent doctorになるための実技試験でも出題されます。学生の時は緊張で手汗をかいて失敗しないようベビーパウダーを使ったりしましたが、医師になった今はパパっと数秒でつけることができます!
そして、滅菌手袋を装着してる時には清潔なものしか触ってはいけません。よくドラマで外科医が顔の前に手をかかげていたり、手術中に「汗!」といって周りの方に額を拭ってもらうのはエラそうにしたいわけではなく、清潔を守るためなのです。清潔手袋をしている医学生が、清潔手袋をしていない医師に眼鏡をくいっと上げてもらうこともあります。「今の自分は清潔なのか?不潔なのか?」が一番大切なので、たとえ上級医でも遠慮してはいけないのです。
「清潔・不潔」は白黒キッパリわけられ、さらに気をつけないとすぐに白(清潔)が黒(不潔)に変わってしまいます。まさにオセロにピッタリのテーマなのです。ピーチさんの『バトル!in the 手術室』は楽しく医療現場の「清潔・不潔」について学ぶことができます。先日のワークショップでテストプレイしたところ、「ふつうのオセロより面白かった!」という感想も飛び出しました。ピーチさんのゲーム以外にもたくさんのゲームの卵が誕生しています。今後みなさんと遊べるようなカタチにできたらいいなと思っていますので、続報をお楽しみに!
ー参考サイトー
OSCEなんてこわくない-医学生・研修医のための診察教室
第13回 手洗い・ガウンテクニック
医学書院の発行する医学界新聞にて、Student doctorになるための実技試験「OSCE」を受験する医学生のために滅菌手袋の着け方を解説しています。
投稿者プロフィール
- 全方位に目があるんじゃないかという細やかな気配りのできる逸材。寛大で誠実、緻密な仕事ができるのに人に優しい。病理医とSTEAM教育研究者の二足の草鞋を履くお母さん。愛くるしいパンダに似ているのであだ名は「しんしん」。
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