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レッツMEditQ COLUMN
2023.07.06
2023.07.06
必読!あらゆる“キカク”に使える抜群の型 「 システム思考」って何?
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6月18日からはじまったMEdit Lab初のワークショップ「レッツMEdit Q! 医学をみんなでゲームする!」は、参加者がゲームプランナーとなって、医学を学ぶためのシリアスゲームを開発しながら成長していくRPG仕立てのプログラムになっています(ワークの様子と内容の詳細は、こちらの記事で)。
ワークショップでは、ゲームをデザインするうえでの「“キカク”書」を参加者のみなさんに作成していただきますが、それにはそもそもゲームが、「どんな仕組みになっているのか」を理解する必要があります。
そこで、今回のコラムでは、キカク書作成に向けて「システム思考」を説明したいと思います。ゲームにかぎらず、文化祭などのイベントの企画などにも活用できる方法で、きっと様々な場面でみなさんのお役に立つものだと思います。それでは参りましょう!

 

■ゲームに出入りする「情報」とは
「引く→足す→並べる→出す→引かせる・・・」
突然ですが、何をしているところかわかりますか。答えは、「トランプのババ抜き」です!
ババ抜きでは、たくさんの「情報の出入り」があります。トランプを隣のひとから引いたり、場に捨てたり、相手にカードを引かせたりと、つねにプレイヤーの中でカード(情報)が刻々と動いていきます。ジョーカーを引いたり、引かせたことの「しまった!」や「しめしめ」がついつい表情に表れてしまって、対戦相手にいらぬ「情報」を与えてしまったりすることもありますよね。
トランプにかぎらず、ゲームにおいては、つねに様々な情報の出入りがあります。よって、ゲームをデザインするということは、「情報のINとOUTのルールを決めること」を意味します。その際、INやOUTしたときの情報のかたちについても考える必要があります。カードや駒など、目に見えるモノを使うのか、数字や記号で表すのか、あるいは話し言葉や表情など言葉にできない情報を扱うのかどうか。
でも実際、さぁ、やってみよう!と思ってもなかなかに複雑です。いったいどこから手をつけたらいいのでしょうか。
そこで、登場するのが「システム思考」です。先ほど述べたように、“物事の仕組みを考える方法”ですので、ゲームのデザイン以外にも色々な場面で役立ちます。ゆっくり説明していきますね。

 

■システムって何?
システムは、ごくごくシンプルに表現すると「情報がINしてOUTする構造」と捉えることができます。図にするとこんな感じです。
ここで大切なのは、内側と外側がはっきりわかるように“区切られていること”。境界をしっかり定め、INする情報とOUTする情報をくっきりと分けます。
これで準備完了! 情報の流れが整理されます。このようにして、あらゆる物事の仕組みを考察していく方法を「システム思考」といいます。

 

■ゲームのシステム、そのひみつ
先日のRPG仕立てのワークショップでは、ゲーム開発の島である「MEdit isLand」にある、「ワーマンの洞窟」を訪れました。
ここでは、参加者のみなさんには、「ブラインド・スケッチ」というゲームに挑戦してもらいました。このゲームのルールはとてもシンプルで、「自分が見た絵を、絵を見ていない相手に言葉だけで伝える」というものです(ワーマンの「洞窟」ですから、暗くて見えない=ブラインド、なのです!)。
せっかくですので、ここでも「ブラインド・スケッチ」を題材にとことん「システム思考」してみたいと思います。
おしゃべり病理医は以下のように表してみました。
いかがでしょうか。
元の絵自体の情報は、インストラクターの説明の言葉に変えられてINされます。インストラクターは、新しく描かれていく絵の様子(OUT)を確認しながら、「あれれれ?全然伝わってないぞ」と内心焦ったりしながらINの内容(言葉の表現や説明の順番など)を調整していきます。
先日のワークショップには、現在、東京工業大学の教授で、プロのゲーム・プランナーでもある山本貴光さんがゲストでお越しくださいました。
その山本貴光さんがレクチャーの中で「ゲームでは、うまくいかないことを楽しんでいるのです」とおっしゃいましたが、ブラインド・スケッチのうまくいかなさは、元の絵の情報が言葉に変換されてINすることにヒミツがありそうです。
みなさんの中には別にシステム的に考えなくともそんなことわかるよ、と思われる方もいるかもしれません。たしかにブラインド・スケッチくらいシンプルなゲームは、こんなふうに考察しなくても、ゲームに面白さをもたらしている要因については予想できますが、さらに複雑なゲームの仕組みを考えるうえで、システム思考というのはとても力強い武器になってくるのですね。

 

■システムを構成する「要素」と「機能」
では、もう少しシステム思考を進めます。ここまでは、おおざっぱに情報のINとOUTだけに注目してきました。今度は、INとOUTのアイダに注目します。そこには、システムを動かすための様々な「機能」と、それらを担当する「要素」が含まれています。
あらゆるゲームも様々なイベントもたくさんの要素が集まって、それぞれが色々な働きを担っていますよね。
さぁ、ここでもブラインド・スケッチで考えてみますよ。
まずは、こちら。元の絵・紙・ペン。必要なモノたち。これらの「要素」は、あわせて「元の絵の情報を聞きながら描くための道具」という「機能」がありますね。
そして、こちら。インストラクター、絵を描く人、そして観察する人。ゲームで遊ぶひとも要素です。機能は何か。色々ありますが、「ゲームで遊ぶこと」をはじめ、他にも「インストラクションの方法を学ぶこと」「絵を描く訓練」「情報のやり取りを観察して分析する」などもあるでしょう。
これである程度、ブラインド・スケッチを構成する要素と機能は網羅できていますが、ゲームが開始されると、「インストラクターが発する言葉」、「描かれていく絵」、「インストラクションがうまくいっているかどうかをじっと観察するひとの視線」、「どきどきする気持ち」など、様々な要素が次々と加わっていき、ゲーム(というシステム)を動かしていきますね。

■たくさんの見方があるシステム
ようやくシステム思考も終盤にさしかかってきました。もうちょっとお付き合いください。
ここまで、
1.境界をしっかり定めて、情報のIN/OUTをくっきりさせる
2.要素・機能を取り出す
について、考えてきました。いよいよ最後、3つめのポイントです。
3.たくさんの見方でシステムを見直す
これです。さっそくブラインド・スケッチで説明しましょう。
こちらの写真。MEdit Labの主任研究員、しんしんこと發知詩織先生が写っていますが、しんしんから見たブラインド・スケッチは、参加者が緊張をほぐすためのアイスブレイクであり、ゲームを知ってもらうための具体例であり、自分がレクチャーを担当するプログラムでもあります。
カメラマンの小森さん(MEdit LabのSTEAM動画教材の監督さんでもありました!)。今回のワークショップの最初から最後までをばっちり激写してくださっていました。小森さんから見たブラインド・スケッチは、撮影するための題材です。
山本貴光さん。後ろからそっと(冷房が効きすぎていたのでちょっと寒そうにして)ゲームの行方を見守っておられますが、貴光さんにとってのブラインド・スケッチは、初めて目にする面白いゲームの一例であり、この後のレクチャーに備えて何かのヒントを得るための具体例だったかもしれません。
このように、同じシステムも見方によって、様々な捉え方があるということです。
ゲームをデザインするときは、プレイヤーと異なる視点を持つことが必要になるということでもあり、一方で、プレイヤーの気持ちにもなってみないと、面白いゲームにはならない。
イベントを企画するときや、学校の先生として授業を組み立てるときも同じことがいえるでしょう。
ちなみに、このようにシステムが持っている様々な特徴を「属性」と呼びます。属性がいちばんシステム思考の上では、理解しにくい概念なのですが、要は、そのシステムをどのようにとらえるか、という見方の種類であるともいえます。
いかがでしたか。
システム思考をマスターするには、あらゆる例示でトレーニングするのが近道。
自分の大好きなモノやコトを使って、システム思考にトライしてみましょう。どんな仕組みなのか、どこに面白さのヒミツが潜んでいるのか、色々な発見があるかもしれません!

 

 

 

◆参考文献◆
ケイテイ・サレン, エリック・ジマーマン, 山本貴光(訳)『ルールズ・オブ・プレイ ゲームデザインの基礎』ニューゲームズオーダー
ジェラルド・M・ワインバーグ, 松田 武彦 (監訳), 増田 伸爾 (翻訳)『一般システム思考入門』紀伊國屋書店

投稿者プロフィール

小倉 加奈子
小倉 加奈子
趣味は読み書き全般、特技はノートづくりと図解。一応、元バレリーナでおしゃべり(おえかき)病理医。モットーはちゃっかり・ついで・おせっかい。エンジニアの夫、医大生の息子、高校生の娘、超天然の母(じゅんちゃん)、そしてまるちゃん(三歳♂・ビション・フリーゼ)の5人+1匹暮らし。