文系ウメ子ちゃんねる
文系ウメ子ちゃんねる COLUMN
2023.09.04
2023.09.04
【写真レポ】MEdit Lab第2回ワークショップを開催しました
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みなさん、ゲームで遊んだことはありますか。鬼ごっこ、トランプ、スーパー●リオ。いろいろありますよね。では、そういうゲームが、どうやって生まれたか考えたことはありますか?

2023年8月26日(土)、MEdit Lab リアル&ウェブワークの第2回が開催されました。今回は、ゲームの開発秘話が大いに語られる時間となりました。夏休み終了間際のとびきりアツい1日の様子を、写真でレポートしていきます。


MEdit isLandへようこそ


8月最後の土曜日。日傘を差した勇者たちが、順天堂大学 本郷・お茶の水キャンパスへと集結していきました。このME

dit Labのワークショップはゲーム仕立て。参加者=勇者は、一つひとつのダンジョンをクリアしていくごとにレベルアップしていきます。これまでにワーマンの洞窟マルジナリア図書館ウメ屋を抜けてきた勇者たち。
第2回は、ウイルスバトル・コロッセオからの出発です。


▲順天堂敷地内は緑がいっぱい。名残のセミの音を聞きつつ、受付へ。いつもの缶バッジに加えて、カラフルなカードがお目見え。今回のワークショップのために業者に発注してトランプサイズに印刷した「ウイルスバトルゲーム」です。


▲ウイルスバトルコロッセオの会場は、劇場のような「小川秀興講堂」。卒業式や国際学会などでも使われる、最新設備の整った大講堂です。


▲参加者にはMEdit  Lab謹製「ウイルスバトルゲーム」のルールブックが配布されました。この《ルール》なるものが本日のメインディッシュ。さあ、第2回ワークショップが始まります。



第2回ワークショップのスタートです


ご挨拶はMEdit  Lab主宰のおしゃべり病理医・小倉加奈子先生から。


▲会場の大きさ、わかりますか。525席の会場を、34名の参加者が贅沢に貸し切りました。ここが、MEdit Labのコロッセオです。 

小倉先生のお話は、今回のテーマの再確認からスタート。ワークショップのテーマは「医学をみんなでゲームする」。これが意味するのは「みんなで、医学ゲームをつくる」ということ。これが勇者たちへのミッション。

そのために、今回までにゲームづくりの基礎となる「システム思考」を学んだり、医学ゲームのテーマを選ぶための「五臓の湯」ワーク「医学っぽい自己紹介」ワークに挑戦していただいたりしたのでした。

第2回ワークショップの目標は、こちら。ゲームにしてみたい医学テーマを選び、その形式を決めるということです。ご案内は、病理医しんしんこと發知詩織先生。
▲今日の目標を聞いて、若干ざわつく勇者たち。そう、結構ハードなことを要求しているのです。でもそれができるのは、参加者のみなさんのポテンシャルを見込んでいるからこそ。今日も、テーマ選びのためのヒントをたくさんご用意しています。


何はともあれ《ルル3条》


まず伝授されたのが《ルル3条》という編集の型。これさえあれば、ゲームがつくれるというMEdit isLandの秘宝です。ゲームづくりなんて一切したことのなかった小倉先生は、この《ルル3条》を駆使することで、ウイルスバトルゲームを開発したといいます。

《ルル3条》とは某かぜ薬っぽい名前ですが、ルール・ロール・ツールの後ろの一文字を並べたもの。《ルール》とは、文字どおりのルール。《ロール》とは英語のrole。RPG(ロール・プレイング・ゲーム)でおなじみですね。「プレイヤー」とか「役割」のことです。《ツール》は道具。

たとえばサッカーというスポーツも、トランプのババ抜きというゲームも、あるいは病院というシステムも、ぜーんぶこの《ルル3条》が絡み合って成り立っているのです。


▲ゲームをつくるとき、ゼロから考えると難しい。そこで役立つのがこの《ルル3条》です。
世の中には、「テニスと卓球」とか「アメフトとラグビー」とか、ちょっと違うんだけど似ているゲームってありますよね。コートの大きさを変えて、それに見合ったボールの大きさにすると、テニスがテーブル・テニス(卓球)へと早変わりするわけです。
トランプも、同じ52枚の《ツール》を使っていても、七並べ、大富豪、スピードなどなど《ルール》を変えることによってさまざまなゲームができる。

わかりましたかな。
そうです、既存のゲームの《ルール》《ロール》《ツール》を一部変更するだけで、新しいゲームに変わるんです。ということは、みなさんだって、世の中にあるゲームの《ルル3条》をすこしイジったら、新しいゲームがつくれちゃうわけです。


▲前回、山本貴光先生が「クリエイターはかならずメモを取ります」とおっしゃっていました。その教訓をしっかりと活かして、この日も参加者たちは前のめりでメモを取っていました。


ゲームづくりの本丸へ


秘宝《ルル3条》を手にした勇者たちは、次なるステージへ進みます。いよいよ、キカクショの書き方を学ぶのです。

ゲームづくりの現場では、完成品ができあがるまえに「企画書」にゲームのあらましをまとめます。MEdit Labのワークショップでも、参加者たちには第3回までに、扱うテーマやゲームの形式、そしてゲームの《ルル3条》をまとめてもらいます。

そのイメージを掴んでもらうため、小倉先生がウイルスバトルゲームを開発したときにプロセス7つのステップに分けて振り返りました。そのプロセスを下敷きにして、プロのゲーム作家であり文筆家の山本貴光先生(東京工業大学教授)にさらなるヒントを教えていただきました。


▲ゲームテーマと、ゲーム形式を今日中に提出してもらうという課題について、「難しいですよね?」と小倉先生が尋ねると、「難しいけれど、楽しいです」とにっこり。

「1回で決めようとしないのが大事ですね。どんなテーマや形式があうか、探っていってください。コツは、一度書いたものは消さないということ。生み出したアイデアは、どこで生きてくるかわかりません」
「アイデアの組み合わせを考えるとき、私は無印良品の名刺カードを使います。カードは、テーブルのうえで組み合わせをつくるのに便利なんです」
「実際のゲーム企画の現場では……」

メモの取り方から発想法まで、山本先生からは具体的な方法があふれるようにでてきます。


▲小倉先生からも、ウイルスバトルゲームの開発中のプロセスが事細かに語られます。


▲ウイルスバトルゲームは、そもそもSTEAM動画教材の補助として使える教材をつくろうというところから始まりました。教材として使うゲームだから、正しい専門知識を盛り込みたい。そう考えた小倉先生は、免疫機能やウイルスについて専門書で調べまくったといいます。
お医者さんだからといって、すでにある知識だけではゲームはつくれない。調べ学習の大切さが語られます。

▲参加者には、小倉先生が調べた免疫機能についての一覧表が配布されました。

対する山本先生も「時間が許す限り、徹底的に調べます」と頷きます。「調査の瞬間だけを切り取ったら、ゲームクリエイターと研究者は見分けがつかない」「百貨店の経営シミュレーションゲームを企画したときは、19世紀のフランスの書物を読んだり、百貨店に入り浸って守衛さんに目をつけられたり」といった壮絶な実体験が語られます。

しかし、そうやって集めた素材は「捨てまくる」というのです。
▲「捨てないとダメなんです。これはクリエイションのコツです」。調べたものには愛着が湧いてしまって、なんとか全部使おうとしてしまうもの。しかし、要素を取捨選択しないと専門的すぎて遊びにくいゲームになってしまうといいます。徹底的に調べて、思い切り捨てる。これがクリエイションの基本だとか。

「でも、いま捨てたアイデアも、将来使えるときが来ます。やったことはあとで、活かされるんです」
「いまこの瞬間に『無駄だ』と思ったものを、全部捨てちゃうのはもったいないです。なぜなら、3年後、5年後、10年後に自分がどんな状況におかれて、どんな必要に迫られるかは、わからないからです」

▲「メモも同じです。いま、必要ではないかもしれないけれど、この先なにかで使えるかもしれない。メモを取るということは、将来の自分との協力プレイなんです」

▲山本先生のお話は、ゲームデザインにとどまらず、生き方についてのアドバイスにも聞こえてきます。会場のいたるところで、未来の自分との「協力プレイ」する姿が見られました。


いよいよ、ウイルスバトルゲームへ


座学を終えると、いざ実習へ。《ルル3条》というゲームの仕組みや、ゲームの開発プロセスを学んだ勇者たちは、次なるステージに進みました。場所をカフェテリアに変えて、いよいよ「MEdit ウイルスバトルゲーム」で遊びます。

いえ、遊びながら、学ぶのです。このワークには2つのねらいがありました。ひとつは、医学知識を身につけること。
ウイルスVSヒトとの対戦ゲームをプレイすることで、ウイルスがどのように人体に感染するのか、そしてヒトはどのようにそれを防ぐのかといった医学知識が自然と頭に入ってきます。


▲参加者たちには、ウイルスバトルカード24枚とルールブックが配られました。参加者たちはルールブックと照らし合わせながら、どんなカードで対戦するか選びます。
戦略を考え、対戦するなかで「空気感染はどうやって防ぐのが効果的?」とか「アルコール消毒が効かないのは、エンベロープの有り無しどっち?」といった詳しい知識が身につくのです。


▲対戦のようすはこちら。経皮感染するRNAウイルス(エンベロープ無し)と出会ってしまったとき、ヒトはどうやって防御すればよいのでしょうか。
このゲームは人間チームVSウイルスチームに分かれての対戦。ウイルスが感染したのかどうか、パンデミックが広がったかどうかを医学的に判断してそれが勝敗となります。その判断をするのために、「神様」役という審判的なロール(役割)が各チームに1人ずつ割り当てられました。
責任重大な神様役に任命されたのは、すでに学校で何度もウイルスバトルゲームに取り組んでいた広尾学園の参加者さんたち。ウイルスの特性を理解しつくした神様たちが、初めて取り組むチームメンバーをサポートしながらゲームが進みました。


▲1チーム4〜5名。ヒトチーム2名、ウイルスチーム2名、神様役1名の《ロール》に分かれての対戦です。第1回のチームをシャッフルし、新たなチーム編成でのプレイ。高校生から医学部生、そして現役のお医者さんまで、立場の異なる人たちと新たな交流が生まれます。ゲームを囲むと、みんなの距離が一気に縮まります。


▲カードの裏面は、MEdit Labパンフレットとおなじレインボーカラー。

ウイルスバトルゲームを体験するこのワーク。もうひとつのねらいは、「このゲームをさらにおもしろくするためのルールを考える」というもの。ゲームをブラッシュアップすることもワークのひとつなのです。

実際にゲームをプレイしてみると、ゲームが《ルール・ロール・ツール》がダイナミックに絡み合って構成されていることが実感できます。参加者のみなさんにはそのうえで《ルール》を変更することで、ゲームにどんな変化が起こるのかを考えてもらいました。

▲にぎやかな会場で「そろそろ新しいルールを考えてみましょう」と、ワークのねらいを伝えるしんしん先生。しんしん先生はウイルスバトルを開発するとき、救急医の旦那さんとゲームのプレイを毎晩繰り返したといいます。そして「この点数だと、ウイルスが負け続けます!」など翌朝、小倉先生にフィードバック。ウイルスバトルのテストプレイヤー第1号なのです。

▲「自分ならどんなルールを追加するか」という観点でルールブックを見てみると、発見がいっぱい。ちょっと難しいかと思われたワークでしたが、参加者からは「時間制限を設けてよりスリリングにする」といったゲームの進行にかかわるものから「一度かかったウイルスにはかかりにくくなるなど、人間の免疫機能を盛り込む」など医学知識を活用するものまで幅広く提案がありました。


▲70分間のウイルスバトルワーク。この日初めてウイルスバトルゲームに取り組む参加者たちも、終わりころにはウイルスの気持ちやウイルスへの対策法をしっかりと理解できるようになりました。


▲そんな様子を、メモをとりながら眺める山本貴光先生。クリエイターたるもの、どんなときでもメモを欠かしません。 
▲ゲーム開発の現場だと、とにかくテストして分析することが重要だといいます。
「ゲーム開発は、一発でうまくいくわけではありません。まずラフな状態で作って、テストする。そして直して、テスト。直して、テスト。その繰り返しです」
「なぜ、そんなにうまくいかないところが出てくるかといえば、頭のなかで想像できることには限りがあるからです。頭のなかで思いつくことは完璧ではありません。だから、見直す。すると、新しいアイデアが生まれて、ゲームがどんどんおもしろくなります」

ウイルスバトルゲームについても、プロ目線からの改善案をいくつも提案くださいました。ゲームは、いったん完成したと思っても、まだまだおもしろくしていけるのです。ウイルスバトルゲームも、みなさんの意見を受けてさらに進化しつづけます。

終わりなきゲーム開発のプロセスを実感したところで、第2回ワークショップはおひらきとなりました。この日、ゲームのテーマと形式を仮決めした参加者たち。(どんなアイデアが出たのか、こちらの記事にまとまっています)これから企画を練りあげ、第3回ワークショップまでにざっくりとキカクショにまとめ、それを山本先生に添削していただくことになっています。

今回のワークショップには、全国各地で年間40回を超える勉強会を開催し、著作も多数、『救急患者の“痛み”のみかた』(メディカ出版)を出版したばかりの坂本壮先生(国保旭中央病院 救急救命科医長)も駆けつけてくださいました。坂本先生は順天堂大学医学部卒業。小倉先生の後輩にあたり、このワークショップを共催しているスポーツ医学研究室小松孝行先生の同期。ウイルスバトルゲームでは女子高校生3名にコテンパンにやられながらも、「ウイルスバトルゲームの救急版をつくりたい」との野望を教えてくれました。
「私の専門は救急ですが、救急は初動が命。正しい知識があれば、助かる命があります。ネットの情報は玉石混交。正しい知識を身につけられる医学ゲームの可能性を強く感じました」とのこと。

現役医師から高校生までが集うMEdit Labで、どんなゲームが誕生するのでしょうか。乞うご期待。

写真:堀貴行、福井千裕

MEdit Lab 順天堂大学STEAM教育研究会
with スポーツ医学研究室 主催

「レッツMEdit Q !」リアル&ウェブワーク
-医学をみんなでゲームする!-

■リアルワークの会場
順天堂大学本郷・お茶の水キャンパス
〒113-8421 東京都文京区本郷2丁目1−1
  https://www.juntendo.ac.jp/access/

第1回2023年6月18日(日) 14時半~17時半 7号館1階 会議室(終了しました)
第2回2023年8月26日(土) 14時半~17時半 7号館小川秀興講堂&カフェテリア(終了しました)
第3回2023年10月28日(土) 14時半~17時半 7号館1階 会議室
第4回2023年12月16日(土) 14時半~17時半 7号館13階 大会議室
※開催場所は変更になる可能性があります。参加者宛のメールをご確認のうえ、会場へお越しください。

投稿者プロフィール

梅澤奈央
梅澤奈央
聞き上手、見立て上手、そして何より書き上手。艶があるのにキレがある文体編集力と対話力で、多くのプロジェクトで人気なライター。おしゃべり病理医に負けない“おせっかい”気質で、MEdit記者兼編集コーチに就任。あんこやりんご、窯焼きピザがあれば頑張れる。家族は、猫のふみさんとふたりの外科医。